姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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「ちょうどよいところに。王妃教育係のあなたにも、話を伺いたいと思っていたところでしたので」

 マイラとヘイデンの婚約解消の書類を持つアンバーに、宰相が声をかける。アンバーは「私に、ですか?」と目を丸くした。

「ええ。実は昨日、甥が私の職場まで訪ねてきましてね。急ぎ訊ねたいこと、聞いてほしいことがあると」

「……はあ」

 何の話しを聞きたいのかさっぱりわからないアンバーが、首を小さくかしげる。すると椅子に座ったままの国王が、重い口を開いた。

「……マイラ嬢に、暴れ馬から救ってもらった令嬢が、この者の甥の娘だそうだ」

「?! マイラ様に?」

 アンバーが驚愕に目を見開き、宰相に視線を戻した。そして、誇らしげに頬をゆるめた。

「……そうでしたか。マイラ様が救った令嬢が、あなた様の血縁の方だなんて」

 その様子に、宰相はふむと顎に手をあてた。

「一つ、伺いたい。あなたから見てマイラ嬢は、どのような令嬢でしたか?」

 アンバーは「……そうですね」と呟き、口火を切った。

「とても真面目で、優しくて、思いやりのある子でしたよ……ただ、見ていて可哀想なぐらい、自分に自信が持てない子でした。パメラ様とは、まるで正反対でしたね」

「王妃教育から逃げた令嬢ですね。マイラ嬢の理解のもと、ヘイデン殿下の側室になる予定とのことでしたが──どうやらずいぶんと、聞いていた話しと違うようで」

 アンバーは「と、言いますと」と片眉をぴくりとあげた。

「甥の娘がですね。マイラ嬢がいた病室の隣に、入院していたそうで。そのとき、ヘイデン殿下やベーム公爵たちが、マイラ嬢にひどい言葉を浴びせているのを聞いたと」

 アンバーはとっさに、国王を見た。国王は机に肘をつき、額を手にあて、うつ向いている。どうやら宰相の話しを、ある程度は聞いたあとのようだった。

「ベーム公爵家のことは……まあ、一旦置いておくとしましょう。問題は、ヘイデン殿下です」

 アンバーの鼓動が知らず、早鐘を打ちはじめる。

「どうも我らの知るヘイデン殿下とは、別人のようだったらしく。甥の話しが本当なら、少し、人格に問題ありかと思いましてね」

 アンバーは内ポケットに入れておいたマイラからの手紙を、宰相に差し出した。宰相が、これは? と、アンバーと視線を交差させた。

「マイラ様から私宛の手紙です。どうぞ、お読みになってください」

「マイラ嬢からの? しかし、なぜそれを私に?」

「あなた様の甥から伺ったお話しと、どうか照らし合わせてみてください。そしてどうか、真実をお知りください」

 ──あの子はこんなこと、望んでいないかもしれない。

 けれど。と、アンバーは思う。

 何も出来ずとも、せめてあの人たちの本性を。あなたが味わってきた痛みを、少しでも多くの人に知ってもらいたい。結果は、何も変わらないかもしれない。それでも何かせずには、いられなかったから。
 
 ──が。


 結末は、誰もが予想だにしないものとなった。
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