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その噂は、ヘイデンが婚約者候補として目をつけた公爵令嬢の耳にも届いていた。そしてヘイデンはまるで知らなかったのだが、マイラとこの公爵令嬢は、同じクラスだった。
話したことはない。だが公爵令嬢は一度だけ、マイラのバイオリンの音色を聞いたことがあった。澄んだ音色に、公爵令嬢は思った。本当にこの子は、噂されるような悪人なのだろうかと。疑問に思っていたところに舞い込んできた、ヘイデンとパメラの噂。公爵令嬢の心は、揺れた。
ヘイデンが婚約者になってほしいと申し出てきたのは、そんなとき。パメラは王妃になれないという。その訳も言わない。どうして。問い詰めるようにして、じっくり観察してみる。ヘイデンが苛つくのが、見てとれた。
(……あら。意外に沸点が低いご様子)
もしあの噂が流れてこなければ、こんなに冷静に対応はできなかったかもしれない。公爵令嬢も心のどこかで、ヘイデンに憧れていたから。
けれどもう、ヘイデンとの煮え切らない会話の中で、第一王子に対する憧れは、驚くほどなくなっていた。
ヘイデンが教室から出ていくなり、クラスメイトが公爵令嬢のもとに集まってきた。
「ヘイデン殿下は、どのようなご用件でしたの?」
クラスメイトの問いに、公爵令嬢は「わたくしに、婚約者になってほしいとのことでした」と答えた。クラスメイトがざわつく。
「婚約者? パメラ様がおられるのに?」
「ええ。わたくしも疑問に思い、質問しました。するとヘイデン殿下は、パメラ様は王妃にはなれないのだとおっしゃいました」
「どうしてですの?」
「さあ。誰にでも、言いたくないことの一つや二つ、あるものだろうとの返答しかいただけなかったので」
教室内はいっそう、騒がしくなった。あの噂は、やはり本当なのかしら。王妃になれないって、ヘイデン殿下がはっきり言っていたそうだぞ。そんな話しでもちきりになる。
(婚約者になれとの申し出を、誰にも話すなとは言われてませんからね)
公爵令嬢は胸中でこそりと呟いた。
話したことはない。だが公爵令嬢は一度だけ、マイラのバイオリンの音色を聞いたことがあった。澄んだ音色に、公爵令嬢は思った。本当にこの子は、噂されるような悪人なのだろうかと。疑問に思っていたところに舞い込んできた、ヘイデンとパメラの噂。公爵令嬢の心は、揺れた。
ヘイデンが婚約者になってほしいと申し出てきたのは、そんなとき。パメラは王妃になれないという。その訳も言わない。どうして。問い詰めるようにして、じっくり観察してみる。ヘイデンが苛つくのが、見てとれた。
(……あら。意外に沸点が低いご様子)
もしあの噂が流れてこなければ、こんなに冷静に対応はできなかったかもしれない。公爵令嬢も心のどこかで、ヘイデンに憧れていたから。
けれどもう、ヘイデンとの煮え切らない会話の中で、第一王子に対する憧れは、驚くほどなくなっていた。
ヘイデンが教室から出ていくなり、クラスメイトが公爵令嬢のもとに集まってきた。
「ヘイデン殿下は、どのようなご用件でしたの?」
クラスメイトの問いに、公爵令嬢は「わたくしに、婚約者になってほしいとのことでした」と答えた。クラスメイトがざわつく。
「婚約者? パメラ様がおられるのに?」
「ええ。わたくしも疑問に思い、質問しました。するとヘイデン殿下は、パメラ様は王妃にはなれないのだとおっしゃいました」
「どうしてですの?」
「さあ。誰にでも、言いたくないことの一つや二つ、あるものだろうとの返答しかいただけなかったので」
教室内はいっそう、騒がしくなった。あの噂は、やはり本当なのかしら。王妃になれないって、ヘイデン殿下がはっきり言っていたそうだぞ。そんな話しでもちきりになる。
(婚約者になれとの申し出を、誰にも話すなとは言われてませんからね)
公爵令嬢は胸中でこそりと呟いた。
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