姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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 教室内を覗くヘイデンに気付いたパメラが、急ぎ、駆け寄ってきた。ヘイデンが満足そうに口元をゆるめる。

 少し、何かが満たされたような気がした。

「パメラ。やはり今日も、いつも通り一緒に昼食をとろう」

 パメラが「よいのですか?」と、顔を輝かせる。ああ。ヘイデンが答える。パメラは嬉しそうに微笑んだものの、すぐに表情を曇らせた。

「どうした?」

「いえ、あの……あたしの気のせいかもしれないのですが。どうも、クラスのみなに避けられているような気がして」

 ぼそぼそ。パメラが困惑しながら小声で話す。避けられている。その科白にヘイデンは、はたとなった。

(……そういえば、今日は挨拶一つされていないような)

 いつもは学園に着くなり、そこら中から挨拶が聞こえてきた。それが日常だった。公爵令嬢に婚約を了承してもらうことばかりに気をとられていて気付くのが遅れたが、確かに違和感はあった。

 ──が。

「気のせいだろう」

 ヘイデンは、そう結論付けた。

「……そうでしょうか」

「ああ。考えてもみろ。何か避けられるようなことでもした覚えがあるのか?」

 パメラは少し考える素振りを見せたが「ない、ですね」と、きっぱり答えた。心からの返答だった。ヘイデンがうなずく。

「だろ? なら、気にする必要などない」

 そうだ。何もしていない。なら、変化などするわけがない。気のせいだ。ヘイデンは心のモヤを、無理やり晴らした。

 正直考えるのが面倒というのもあったが、何が起きたとしても、どうとでも対処できる。そんな自信からくるものだった。

 
 
 教室の扉付近で会話するヘイデンとパメラは、気付いていなかった。教室内にいる一人の伯爵令嬢が、ナイフのように鋭い眼差しを、二人に向けていたことに──。

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