43 / 57
43
しおりを挟む
同時刻。
学園に着いたヘイデンは、その足で、とある公爵令嬢の元へと急いでいた。資料によるとその令嬢はマイラと同学年。まだ婚約者も恋人もおらず、頭の出来も悪くないとのこと。他にも候補はいたものの、ヘイデンはまず、その令嬢に目をつけた。
(これがうまくいけば、今日で婚約者探しを終えられる)
面倒なことは、とっとと済ませておくに限る。その思いから、ヘイデンは足早に公爵令嬢がいる教室を目指していた。
だからだろうか。この時点で、自身を見つめるまわりの視線が、昨日までとはまるで違っていたことに気付かなかったのは。
教室に着くなり、ヘイデンは教室内にいた一人の男子生徒に、目当ての令嬢の名を告げた。男子生徒が席に座る一人の女子生徒を指差す。ヘイデンは男子生徒に礼を言い、その女子生徒に近付いた。
まわりがざわつく。ヘイデンは気にしない。容姿端麗。文武両道。そして、第一王子という地位。
(どこにいようと注目の的にされてしまうのは、仕方のないことだ)
ヘイデンは苦笑しながら、目当ての公爵令嬢の前に立った。公爵令嬢が、席に座りながらゆっくりと顔をあげる。顔を赤らめるかと思ったが、目の前の女は驚愕に目を見開いたかと思うと──眉をひそめた。
「あの、何か……?」
その態度にいささか苛立ちを感じたヘイデンだったか「突然すまない。君と話したいことがあるんだ。少しだけ私に時間をくれないだろうか」と、にっこりと笑ってみせた。だが、女はますます表情を曇らせた。
「……話し、ですか。では、ここでお願いできますか?」
ヘイデンは片眉をぴくりとあげた。
「いや、とても大事な話しなんだ。あまり人に聞かれたくない。むろん、君にとって悪い話しではないから安心してくれ」
「……申し訳ありません。ヘイデン殿下と二人きりになるのはちょっと……」
うつ向く女に、ヘイデンは一人納得した。何だ、照れているだけかと。もしくは、パメラという婚約者がいる王子と二人きりになるのには立場的にまずいと、そう警戒しているのかもしれない。
「そうか。私も考えなしだったな。謝るよ」
「…………」
沈黙する令嬢。教室内を見渡すと、みなこちらに視線を集めているものの、一定の距離は保たれていた。それを確認したヘイデンは、小声で語りはじめた。
学園に着いたヘイデンは、その足で、とある公爵令嬢の元へと急いでいた。資料によるとその令嬢はマイラと同学年。まだ婚約者も恋人もおらず、頭の出来も悪くないとのこと。他にも候補はいたものの、ヘイデンはまず、その令嬢に目をつけた。
(これがうまくいけば、今日で婚約者探しを終えられる)
面倒なことは、とっとと済ませておくに限る。その思いから、ヘイデンは足早に公爵令嬢がいる教室を目指していた。
だからだろうか。この時点で、自身を見つめるまわりの視線が、昨日までとはまるで違っていたことに気付かなかったのは。
教室に着くなり、ヘイデンは教室内にいた一人の男子生徒に、目当ての令嬢の名を告げた。男子生徒が席に座る一人の女子生徒を指差す。ヘイデンは男子生徒に礼を言い、その女子生徒に近付いた。
まわりがざわつく。ヘイデンは気にしない。容姿端麗。文武両道。そして、第一王子という地位。
(どこにいようと注目の的にされてしまうのは、仕方のないことだ)
ヘイデンは苦笑しながら、目当ての公爵令嬢の前に立った。公爵令嬢が、席に座りながらゆっくりと顔をあげる。顔を赤らめるかと思ったが、目の前の女は驚愕に目を見開いたかと思うと──眉をひそめた。
「あの、何か……?」
その態度にいささか苛立ちを感じたヘイデンだったか「突然すまない。君と話したいことがあるんだ。少しだけ私に時間をくれないだろうか」と、にっこりと笑ってみせた。だが、女はますます表情を曇らせた。
「……話し、ですか。では、ここでお願いできますか?」
ヘイデンは片眉をぴくりとあげた。
「いや、とても大事な話しなんだ。あまり人に聞かれたくない。むろん、君にとって悪い話しではないから安心してくれ」
「……申し訳ありません。ヘイデン殿下と二人きりになるのはちょっと……」
うつ向く女に、ヘイデンは一人納得した。何だ、照れているだけかと。もしくは、パメラという婚約者がいる王子と二人きりになるのには立場的にまずいと、そう警戒しているのかもしれない。
「そうか。私も考えなしだったな。謝るよ」
「…………」
沈黙する令嬢。教室内を見渡すと、みなこちらに視線を集めているものの、一定の距離は保たれていた。それを確認したヘイデンは、小声で語りはじめた。
96
お気に入りに追加
2,073
あなたにおすすめの小説
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる