姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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 翌朝。

「おや、これはこれは。まさかあなたがここまでいらしてくれるとは思わなかったですな」

「朝早くに申し訳ございません。ベーム公爵」

 ベーム公爵家を訪れ、応接室に通されたアンバーが、腰を折る。ベーム公爵は椅子に座りながら、いささか顔を曇らせた。

「とんでもない。あなたには、二度も迷惑をかけることになってしまい、本当にすまないことをした。こうして直接、謝罪が出来て良かったよ」

「いいえ。今回は、誰もが予想出来ないことが起きてしまった結果ですから。仕方のないことです」

 今回は、とさらっと述べたアンバーの意図にまるで気付く様子もなく、ベーム公爵が安堵する。

「そう言ってもらえると助かる……あれが望むままに修道院へと送ってはみたが、本当にこれで良かったのかと、あれからずっと自問自答しているところだ」

 いかにも哀しんでいますといった風に、ベーム公爵がうつむく。アンバーは苛ついたが、その感情は綺麗に隠した。

「ああ、すまない。つい弱音を──それで。あなたが我が屋敷まで来た理由は何ですかな」

「はい。陛下から、マイラ様とヘイデン殿下の婚約解消の書類を預かってきました。ベーム公爵の署名をいただくようにと」

 おお。
 ベーム公爵は目を丸くした。

「そうだったのか。思っていたより、ずっと早くて驚いたな」

「ヘイデン殿下には、早く次の婚約者を探してもらわなくてはなりませんからね」

「確かに。マイラのように心の広い令嬢でないと、パメラはもちろん、ヘイデン殿下も幸せにはなれませんからな」

 アンバーは一瞬の間のあと「そうですね」とだけ答え、さっさと署名をもらい、屋敷を後にした。

 パメラはもう学園に行っている時刻だろうから、パメラの姿がないのには納得いったが、ベーム公爵夫人の姿が見えなかったのは、アンバーを避けたからだろう。

(娘を泣かせた女、とでも思っているのでしょうよ)

 パメラが王妃教育から逃げたあと、一度だけベーム公爵夫人と対面したことがある。そのとき、あきらかな敵意を向けられたことを覚えている。

『あら、ほんと。きつそうな顔をしているわね』

 ぼそっと吐き出された言葉。小さいけれど、確かにアンバーの耳には届いていた。

「……夫婦そろって、馬鹿にも程がありますね」

 馬車に揺られながら、アンバーは凍った瞳と表情で、一人吐露した。


 アンバーは宮殿に着くなり、怒りのまま真っ直ぐ、国王の元へと向かった。国王の執務室にアンバーが許しを得て入ると──そこには何故か、この国の宰相がいた。
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