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「……ヘイデンが、ベーム公爵からマイラ嬢との婚約解消を望んできたと聞いてな。事実確認をするため、実は先ほどまで、ここでベーム公爵と話し合いをしていた」

「婚約解消の話しがどうして、マイラ様が修道院に行くことに繋がるのですか?」

「……ベーム公爵の話しでは、記憶をなくしたマイラ嬢はひどく怯えていて、王妃などとんでもないと泣かれたそうだ。そこでベーム公爵はヘイデンに婚約解消を頼み、ヘイデンもそれを受けた」

 アンバーがうなずく。そこまでは何とか理解できたから。問題はそのあとだ。

「それからベーム公爵が父親だと知ったマイラ嬢は、見ず知らずの方に世話になるわけにはいかないので、公爵家から除籍してもらった上で、修道院に行きたいと申し出たらしい」

「…………急展開過ぎませんか」

「ベーム公爵も迷ったが、マイラ嬢の強い意志に負け、その想いを尊重することに決めたそうだ。すでに除籍の手続きは済ませ、マイラ嬢を修道院に送り届けたと言っていた」

 しん。
 執務室は一瞬、静まり返った。

「……例えばそれが真実だとして、怪我を負い、記憶喪失となった娘を、そう簡単に除籍し、修道院に入れるでしょうか。子を愛する親ならば、そんな大事な決断、少なくともすぐにはできませんよ。どう考えてもこれは、厄介払いではありませんか」

「……否定はせん」

「そもそも、はじめからおかしかったですよね。ベーム公爵は『この子は姉想いですから。姉の幸せのためなら、何でもしますよ。それがこの子の幸せなのです』なんておっしゃっていましたけど。王妃教育から身勝手に逃げたパメラ様を誰も責めることすらしない。逆にマイラ様のことは、誰も気にかける様子もありませんでした」

 アンバーの口調に、どんどん怒気が含まれていく。

「世間ではまだ、パメラ様がヘイデン殿下の婚約者だと認識されたままです。こんなおかしなことがありますか?」

 いくらマイラがそれでよいと言ったとはいえ、この状況を許した国王にも、罪はある。

「……その通りだ」

「マイラ様から詳しく聞いたわけではありませんが、言葉の端々からよみとれるものです。あの子が家族に大事にされていないことぐらい……っ」

 アンバーはこぶしを握り締め、国王と視線を交差させた。


「私、これから修道院に行って参ります。せめてマイラ様の怪我の具合と──真実を確認しなければ」

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