姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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 馬車の中からぼんやり曇り空を見上げる。思い返せば昨日までの三日間は、ずっと晴れ空が続いていた。それはどこか、必然のようにも思えて。

(都合良く考えすぎか……)

 しばらく馬車に揺られていると、ふいに、バイオリンの微かな音色が耳に届いてきた。目を閉じ、耳をすます。まさかな。はじめはそんな思いが強かったものの。徐々に近付き、大きくなっていく音色に、ライナスは気付けば、馬車をとめるよう指示を出していた。

「どうされたのですか?」

「……聞こえるか、ホレス」

 ホレスは「バイオリンの音色ですね」と窓から外を見た。

「マイラ嬢の音色に似ていると思わないか?」

「あいにく私は、ライナス様のように音の質や色を聞き分けるような耳を持ってはいないので、何とも──しかしマイラ嬢はこの時間、学園にいるはずでは?」

「……そうだったな」

「気になるのなら、確かめに行ってみてはどうでしょうか」

「しかし……」

 コンコン。
 馬車の扉をノックされた。この国の王からライナスを国境付近まで護衛するようにと命じられた兵の一人だった。

「ライナス殿下。どうかされましたか?」

「ああ、いや」

 迷うライナスに対し、ホレスの行動は早かった。馬車の扉をさっさと開け「申し訳ありません。主がどうしても、このバイオリンの音色が気になると」と伝えた。そのとき、音色がやみ、先にある広場から拍手が沸き起こった。

「──ライナス殿下?!」

 兵士が叫ぶ。開けた扉から、ライナスがフード付きのマントをまとい、風のような早さで飛び出していってしまったからだ。そのまま、広場に向かって駆けていく。ぽかんとする兵士たちに、ホレスは落ち着いた口調で告げた。

「バイオリンの弾き手を確認しに行っただけです。私が追いますから、みなさんはここで待機していてください」

「そ、そんなわけにはっ」

「──ですよね。では、一緒に行きましょう。騒ぎにはしたくないので、できれば少人数でお願いします」

「わ、わかりました」

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