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 ──時は、少し前にさかのぼる。


「予定よりも、大幅に出立時刻が遅れてしまったな。結局は、昼食までご馳走になってしまった」

「国王様は、ライナス様のことをとても気に入ったご様子でしたから」

「ああ、ありがたいことだ」

 ガタ。ゴト。
 馬車に揺られながら、ライナスとホレスが会話を交わす。ふと、話しが途切れた瞬間。少しずつ遠ざかる宮殿を、ライナスが振り返った。一度。二度。ライナスの正面に座るホレスが、静かに口を開いた。

「そんなにマイラ様のことが気になるのですか?」

「?! な、どうしてその名をお前が知っているんだっ」

「ライナス様が夜毎、マイラ様がおられる離宮に通われるのを、うしろからこっそり護衛しておりましたから」

 ホレスがしれっと答える。ライナスは瞠目し、うなだれた。

「……どうしてバレたんだ」

「夜更けだろうと何だろうと、いつでも隣室にいるライナス様に気を向けていましたからね」

「……ちゃんと寝ろ。寝不足になるぞ」

「寝ていましたよ。けれどあなたが扉を開け閉めする音だけで、私は目が覚めてしまうものですから」

「……それはすまなかったな」

「いいえ。みずから女性に近付こうとしないライナス様の貴重な姿を拝見できましたので、私は満足です」

「? そんなことはないだろ」

「ありますよ。気付いておられないのですか? もっともあなたの場合、ほうっておいても向こうから近付いてきますから、必要がなかったのでしょうが」

 ライナスは本当に意外だったらしく「そうなのか……」と不思議そうに呟いた。

「──マイラ様に好意を抱いていたのですか?」

 ホレスの真剣な問いに、ライナスは迷いながらも「……そうだな」と返答した。昔からホレスにだけは、本心をあかしてきた。いまさら誤魔化す必要もない。

「あんなに強く誰かを護りたいと思ったのは、はじめてだ──それに、お前も聞いただろう。第一王子とパメラ嬢の会話を」

「ええ。ひどいものでした。パメラ様はマイラ様に暴言を吐かれ、暴行されていたと言っていましたが、疑わしいものですね」

「……わたしも同意見だ。むしろわたしは、逆なのではないかとさえ思っている」

「わかります」

 胸の内をあかせて少し気が楽になったのか、ライナスは、ほうっと息を吐いた。

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