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「善は急げと申しますし、これからみんなで宮殿に行きませんか?」
パメラがぱんと両手を合わせる。正確には、政を行う朝廷をさしている。そこには婚姻関係など、貴族についての様々なものを扱う部署がある。その一つに、除籍の手続き、及び書類を提出する部署もあるのだ。
「そうだな。婚約解消の件も、父上たちに早く報告した方がよいだろう。さっさと次の婚約者を探さないとならなくなったからな」
「心配なさらなくても、ヘイデン殿下ほどのお人なら、探さなくても向こうからやってきますわ」
「ふっ。そうだな。次はせめて、もう少し社交的なやつにするとしようか」
パメラの言葉ですっかりと上機嫌になったヘイデンが立ち上がる。
「ベーム公爵。私たちは先に宮殿に向かっているぞ。除籍の手続きなど早くすませ、貴殿が言っていた美味い肉料理を出す店に行くとしよう」
「承知しました、ヘイデン殿下」
ぱたん。
病室の扉が閉まる。ベーム公爵夫人は「ヘイデン殿下をお待たせするわけにはいかないわ。さっさとお立ちなさい」と、マイラの腕を引っ張り、無理やり寝台から立たせた。
マイラはよろけながらも、何とか立ち上がった。ふと、寝台の傍の壁に立て掛けてある、バイオリンケースが目に入った。近寄って膝をつき、そっと持ち上げる。
「……これは」
「あら、駄目よ。そんなものでもいくらかはお金になるかもしれないのだから、あなたにはあげないわ」
ベーム公爵夫人がマイラからバイオリンを取り上げようとしたが「いい。好きにさせろ」と、ベーム公爵がそれを止めた。
「どうして? どうせこの子、弾き方も覚えてないのではなくて?」
「前の妻の遺品だ。そいつから取り上げて、呪われでもしたらどうする」
ぷっ。ベーム公爵夫人は馬鹿にしたように笑ったものの「まあ、いいわ」とバイオリンケースをはなした。
「これで最後ですもの。餞別として、あげるわ。せいぜい感謝なさいな」
マイラはつかの間バイオリンケースを見詰めていたが、二人に早くしろとうながされたので、バイオリンケースを両手に抱えながら、静かに立ち上がった。
パメラがぱんと両手を合わせる。正確には、政を行う朝廷をさしている。そこには婚姻関係など、貴族についての様々なものを扱う部署がある。その一つに、除籍の手続き、及び書類を提出する部署もあるのだ。
「そうだな。婚約解消の件も、父上たちに早く報告した方がよいだろう。さっさと次の婚約者を探さないとならなくなったからな」
「心配なさらなくても、ヘイデン殿下ほどのお人なら、探さなくても向こうからやってきますわ」
「ふっ。そうだな。次はせめて、もう少し社交的なやつにするとしようか」
パメラの言葉ですっかりと上機嫌になったヘイデンが立ち上がる。
「ベーム公爵。私たちは先に宮殿に向かっているぞ。除籍の手続きなど早くすませ、貴殿が言っていた美味い肉料理を出す店に行くとしよう」
「承知しました、ヘイデン殿下」
ぱたん。
病室の扉が閉まる。ベーム公爵夫人は「ヘイデン殿下をお待たせするわけにはいかないわ。さっさとお立ちなさい」と、マイラの腕を引っ張り、無理やり寝台から立たせた。
マイラはよろけながらも、何とか立ち上がった。ふと、寝台の傍の壁に立て掛けてある、バイオリンケースが目に入った。近寄って膝をつき、そっと持ち上げる。
「……これは」
「あら、駄目よ。そんなものでもいくらかはお金になるかもしれないのだから、あなたにはあげないわ」
ベーム公爵夫人がマイラからバイオリンを取り上げようとしたが「いい。好きにさせろ」と、ベーム公爵がそれを止めた。
「どうして? どうせこの子、弾き方も覚えてないのではなくて?」
「前の妻の遺品だ。そいつから取り上げて、呪われでもしたらどうする」
ぷっ。ベーム公爵夫人は馬鹿にしたように笑ったものの「まあ、いいわ」とバイオリンケースをはなした。
「これで最後ですもの。餞別として、あげるわ。せいぜい感謝なさいな」
マイラはつかの間バイオリンケースを見詰めていたが、二人に早くしろとうながされたので、バイオリンケースを両手に抱えながら、静かに立ち上がった。
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