姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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「お忙しいところ、ありがとうございました」

 宮廷内の応接室にて。ライナスが立ち上がり、テーブルを挟んで真向かいに座るこの国の王に頭を下げる。国王は「いやいや、こちらこそ」と腰をあげた。

「こうして直接、サイディルム王国の第二王子であるあなたと、互いの国のあいだの問題を話し合えたことはとても有意義でした」

「そう言ってもらえて、ほっとしました。まだまだ若輩者ですから」

「何をおっしゃる。まだ二十歳で、その博識と、落ち着きよう。ヘイデンにも是非見習ってもらいたいものです」

「はは。ご謙遜を」

「いえ……本当に、何と言いますか。他のことはともかく、女性を見る目があまりなかったようで」

 国王がだんだんと声を小さく、笑みを消していく。何と反応していいかわからず、ライナスが声を詰まらす。

「あの……」

「ああ、申し訳ない。つい……」

 国王がかわいた笑いを浮かべる。一時間後に夕食の約束を交わしたライナスは、何とも言えない気持ちを持ちつつ、応接室を後にした。

「お待たせ、ホレス」

 応接室の扉の前で待機していたホレスが「お疲れ様でした」と頭を下げた。



 宮廷の窓から見える空は、すでに暗い青に染まりつつある。低い位置にある月に、ライナスはふと足を止めた。脳裏を過るのは、たった二度逢っただけの令嬢のことばかり。後ろに控えるホレスは何も言わず、同じように足を止め、主を見詰めた。

 そのとき。

「──ヘイデン殿下。本日のマイラ様の王妃教育も、滞りなく、問題なく、終わりました」

「わかった、ご苦労」

「それでは。私はこれで失礼しますね」

 こつこつ。
 一つの足音が、ライナスとは別の方向へと遠ざかっていく。

 廊下の曲がり角の先から響いてきた、男女の会話。姿は見えないが、報告を受けている者がヘイデンだということだけは確かなようだ。が。

(──マイラ、と聞こえたが……王妃教育? どういうことだ?)

 ヘイデンの婚約者はパメラではないのか。なら王妃教育を受けるべきなのは、パメラのはず。

(違うな。候補、だったか。ということは、マイラ嬢が正式な婚約者なのか? ……いや、でも。それならなぜ、歓迎パーティーに第一王子と一緒に居たのがパメラ嬢だったんだ……?)

 訳がわからず、ライナスが首をひねる。答えはすぐに、知ることとなった。

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