姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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「めずらしいですね。あなたがぼうっとするなんて」

 夕刻からの王妃教育の時間。マイラは、はっとしながら「す、すみません」とアンバーに頭を下げた。ぼうっとしていた自覚があったから。

「怒ってなどいませんよ。たまには、そんな時間も必要ですから。それで、何か悩み事でもあるのですか?」

「え、えと」

「私でよければ、話してごらんなさい。一人で悩むのはよくないですよ」

 ──先生。わたし、たった一度逢ったきりのライナス殿下のことが忘れられないのです。

 とは、さすがに言えず。けれど、もう一度逢いたい。明日と言ってくれたけれど、本当に来てくれるのか。心配になったが、はたと気付いた。何よりもまず、ここに居続けることが大前提となってくるということに。

 今日ここを追い出されたら、きっと、もう二度とあの方とは逢えない。そう思うと、何だか急に怖くなってきた。

「……わたしはいつまで、ここに居られるのでしょうか」 

 ぽつりと吐露された言葉に、アンバーは優しい声音で答えた。

「マイラ様。これだけは信じてください。あなたが努力をし続けるかぎり、私はヘイデン殿下に『問題ありません』と報告し続けますよ」

「……今日も、ですか?」

「むろん、今日もです」

「……わたし、ぼうっとしていました」

「数時間のうち、ほんの数分でしょう?」

 アンバーが口元を緩める。マイラはほっとし「すみません。もう大丈夫です」と、机に向き直った。

 わかっている。例えアンバーがそう言ってくれても、ヘイデンが一言、やっぱりお前を婚約者にするのはやめると言えば、マイラはすぐにここを追い出されてしまうだろう。

(……そう考えると、ライナス殿下に逢えたのは、まさに奇跡だったんだわ)

 ライナス殿下と出逢えた。バイオリンを褒めてもらえた。それだけでもう、充分ではないか。

 ──今夜また逢えたら、二度目の奇跡ね。

 マイラはそっと目を細めた。

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