姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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「何だか今日は、朝廷の方が騒がしいようですが……」

 恒例の、アンバーとのお茶の時間。マイラが訊ねると、アンバーは「歓迎パーティーの準備をしているのですよ」と教えてくれた。

「どなたか来られるのですか?」

「ええ。友好国である、隣国のサイディルム王国の第二王子が来られるそうです」

「そうなのですか」

 アンバーは「……あなたはやはり、知らされていなかったのですね」と眉をひそめた。

「歓迎パーティーに、ヘイデン殿下はパメラ様と共に出席なさるとか」

 怒気が含まれた口調に、マイラは苦笑した。

「当然のことだと思います。わたしは一応婚約者ではありますが、いつ婚約を破棄されてもおかしくない身。それに、ヘイデン殿下が本当に愛しているのはお姉様ですから」

「……あらためて考えると、可笑しな話ですね。あの方が将来の王だなんて、この国は大丈夫でしょうか──ああ。このことは、秘密でお願いしますね」

 ふふ。マイラとアンバーが笑い合う。

「もちろんです。それに、わたしも他では話せないようなことを、もうたくさん先生に話していますから。おあいこですよ」

 部屋の窓から春風が吹く。ここに来てから気付けばもう、ひと月が経とうとしていた。



 夜になると、さすがに風は冷たく、身体は冷えた。けれど庭から見上げる夜空があまりに綺麗で、マイラはバイオリンを片手に外に出た。

 まわりには誰もいない。誰に遠慮することもない。聞こえるのは、虫の声だけ。

 すう。深く息を吸う。ちっとも息苦しくない。それだけで、とても幸せだった。

 母を想いながら、バイオリンを弾く。音が踊る。心が満たされていくのを感じる。けれど逆に、不安にもなる。いまさらあの屋敷に戻されて、心が保てるだろうか。耐えられるだろうか、と。

 ──戻りたくない。もっと、もっと頑張らないと。

 音が乱れた。はっとし、弓をおろす。構えをといたところで、ぱちぱちという拍手音が耳に響いた。ぎょっとし、振り返るマイラ。月明かりに照らされながら現れた一人の青年は「ごめん。驚かせてしまったね」と笑った。
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