姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ

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 父親と義母は、何度も何度もパメラを褒めたたえ、マイラに何度も何度も、パメラに感謝の言葉を述べなさいと言い続けた。機械仕掛けのように、マイラは何度もパメラに礼を述べた。最初は本当に感謝の気持ちもあったが、そんなものはもう、最後には欠片も残っていなかった。


「あら。あの令嬢の妹だというから、心配しておりましたが……これなら期待できそうですね」

 王妃教育の初日。四十代後半の女性。王妃の教育係であるアンバーが、マイラにうけさせた試験の採点結果を見て、頬を緩めた。

「ありがとうございます。とりあえず今日は、合格ということでよろしいのでしょうか……?」

 与えられた離宮の一室。マイラが遠慮がちに訊ねると、アンバーは先ほどまでの厳しい顔からいってん、「もちろんですとも」と笑った。

「基礎はきちんと学べているようですし、さっそく明日から本格的に王妃教育をはじめましょう」

「はい。よろしくお願いします」

 頭を下げるマイラ。アンバーは机に試験用紙を置くと、椅子に座るマイラをじっくりと見た。

「あなたは本当に、あのパメラ様の妹なのですか?」

「え?」

「ああ、申し訳ありません。ずいぶんとその、性格も優秀さも、違うなと思いまして……」

「……姉はわたしと違い、とても明るいですから」

「明るいというか、品がないと言いますか。必死に隠してはおられますが、あの方はすぐに頭に血がのぼってしまう性格なのでは?」 

 マイラが目を丸くする。姉の本性は、ヘイデンと家族以外、誰も知らないはずだからだ。マイラの様子に、アンバーは「出すぎたことを申しました」と口元を手で覆った。

「しかし、本当によいのですか? 例えばヘイデン殿下の正室になれたとしても、あなたは言わば、お飾りの王妃。公務を押し付けられるためだけの存在になるのですよ?」

 淡々とアンバーが問う。マイラは内心、驚いていた。それはマイラを気遣うような言葉にも思えたから。

 慣れないそれは何だか、くすぐったくて。それでいて、胸があたたかくなるような。不思議な気分だった。

「はい。承知しております。けれど公務さえきちんと出来ていれば、わたしは必死とされ、命が脅かされることもないでしょうから……わたしにとっては、夢のような話なのです」

 アンバーが目を見張る。何かを問うために口を開こうとしたものの、諦めたように、頭を下げた。

「──私のようなものが口出しすることではありませんでしたね。では、私はこれからヘイデン殿下の元へ参りますので」

「はい。ありがとうございました」

 ぱたん。
 部屋の扉が閉まる。訪れたのは、マイラにとって、心地好い静寂だった。
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