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 そんな環境で育ったマイラが、社交的で明るい性格になれるはずもなく。加えて、先に王立学園に入学したパメラがマイラの悪評を広めたため、マイラは学園でも孤立することになってしまった。

「あたしが連れ子だからって、馬鹿にするんです。ひどいと思いませんか? 暴力をふるわれたこともあるんですよ!」

 まあ、何てこと。
 それはひどい。

 パメラの演技は真に迫っていて、誰もがパメラの言うことを信じ、疑わなかった。マイラは、最初から諦めていた。どうせ誰も信じてくれない。どころか、パメラの言葉を否定すれば、両親からどんな目に遭わせられるかわからない。そんな恐怖から、マイラには口をつぐむより他に選択肢などなかった。

 不幸中の幸いか。公爵令嬢という立場のため、いじめなどの行為はされなかったが、誰もマイラに話しかけることはなかった。それでも屋敷にいるより、マイラはずっと楽に息が出来た。

 一つは、学園にいるときのパメラは、マイラに近付いてこないから。遠巻きに、怖いですわと友人たちの陰に隠れてしまうからだ。

 そして。もう一つは、バイオリンを好きなときに弾けるから。

 小さなころから習っていたバイオリン。けれどマヌエルが産まれてからは、うるさいと怒鳴られるようになってしまった。バイオリンの先生もいつしか来なくなって稽古もなくなり、弾くことすら禁じられた。けれどマイラは我慢が出来ず、家族が何処かに出かけるときを狙い、バイオリンを弾いていた。さすがに憐れに思っていた使用人たちは、そのことを父親たちに密告することはなかった。

 でも、本当はもっと、弾きたかった。

 マイラが持っているバイオリンは、かつては母親の持っていたもの。つまりは、母親の形見だった。バイオリンを弾いているあいだだけは、嫌なことを忘れられた。同時に、母親の温もりを感じられるような気がした。マイラにとっては、唯一の救いのようなものだった。

 授業が終われば、人気のないところを探し、学園が閉まるギリギリまでバイオリンを弾き続ける。それが、マイラの日課となっていった。

 それでも日が暮れれば、あの屋敷に戻るしかない。他に行くあてなどないから。足取りは重く、心も沈んでいく。


(でも明日から、しばらくはあの屋敷に帰らなくてもいいんだわ)

 離宮ということは、もしかしたら、バイオリンも好きなときに弾けるかもしれない。

 マイラは数年ぶりに、そっと口元に笑みを浮かべた。
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