──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ

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 はい。
 声と共に、扉が開かれた。顔を出したのはアデラインではなく、パットだった。オーレリアの姿に、目を白黒させる。

「え、オーレリア? どうしてここに?」

 心底驚いた様子のパット。だが、焦った様子はない。いつも通りの、パットだった。少し安心したオーレリアは、口を開いた。

「す、すみません。あの、街で偶然パット様をお見かけして、きっとこれからアデラインさんのところにいくのだと思ったら、いてもたっても居られず……」

「はは、そうなんだ。ちっとも気付かなかったよ。探偵の素質、あるね。うーん。でもあいにく、父上からの返事はまだきてなくて」

「わ、わかっています。あの、わがままを承知でお願いします。アデラインさんと、あいさつだけでもさせてもらえませんでしょうか……っ」

 鬼気迫る勢いのオーレリアに、パットは目をぱちくりさせながらも、少し待っててくれるかな、と部屋に引っ込んだ。かと思えば、すぐに出てきた。

「アデラインも、きみにあいさつがしたいって。二人がいいなら、父上もきっと許してくれるよ。それに、こんな街外れまできてくれたきみを何のもてなしもせず帰すなんて、できないからね」

 笑顔のパットに、オーレリアは思った。ああ、やっぱり先ほどの話しは全て嘘だったのだと。

「さあ、どうぞ」

 招かれ、お邪魔します、とお辞儀しながらオーレリアは部屋に入った。そこは外観と同じく年季の入った、小さな部屋で。部屋は玄関から難なく全てが見渡せた。左奥には机と椅子があり、右奥には寝台があった。


 ぱたん。
 背後で、パットが扉を閉める音がした。
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