──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ

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「ああ、驚いた。何だい、あんた」

 二人の年配の女性が目を丸くする。オーレリアは、はっとしながら「す、すみません」と頭を下げた。

「い、今の話を立ち聞きしてしまって、ですね……あの……わたしは、パットさ……んの学友でして、近々アデラインさんと会わせてもらう約束をしていて……」

 年配の女性の一人が、ああ、と声をあげた。

「確かに、あの青年の名前はパットだったね。そうかい。あんたは、あの子の学友なのかい」

「……はい。それで……立ち聞きしてしまったことはお詫びします。あの、先ほどのお話なのですが……っ」

 顔面蒼白なオーレリアに、女性たちは顔を見合せ、気の毒そうに顔を曇らせた。

「……あの子があんたに、アデラインちゃんと会わせると約束したのかい?」

「わ、わたしが、パットさんから度々アデラインさんのお話を聞いてて、お友達になりたいから一度会ってみたいとお願いして……でも、パットさんのお父様がわたしとアデラインさんを会わせるのを反対されてて……えと、今日はたまたま街でパットさんを見かけて、思わず後をつけてしまって……」

 軽くパニック状態のオーレリアの背中を、年配の女性は「大丈夫かい?」と、心配そうにそっと撫でてくれた。

 その温もりに、オーレリアは少しだけ冷静さを取り戻すことができた。

「……す、すみません。取り乱してしまって……」

 無理もないよ。もう一人の女性が呟いた。

「突然こんな話を聞かされたら、誰だって動揺するさ。あたしだってこの人から聞かされたとき、ひどく動揺したもんさね」

 優しく、気遣うような声音に、オーレリアはある決意を固めた。


「あの……パットさんとアデラインさんのことについて、詳しく教えてもらうことはできないでしょうか」

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