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パットは、ぽかんとした。
「え……いい、のですか? ですが、父上たちはあれほど反対して」
クーヘン伯爵は、小さく笑んだ。
「ああ……いいんだ。お前は例えクーヘン伯爵家から除籍されたとしても、アデラインと一緒に生きたいと言った。けれど私たちはお前が……心配で。だが、愛する人がいてもよいと、愛する人の元に通っても笑って許してくれる令嬢は、オーレリア嬢以外にはいないだろう。それに、社交界にも噂は広まるだろうしな。だから──好きにしなさい。それでもお前が私たちの息子であることに変わりはない。それだけは覚えておきなさい」
「……そうよ、パット。学園を卒業したら、自分でお仕事を見つけなければならないけど、困ったことがあったらいつでもわたくしたちを頼っていいのよ……?」
温かい両親の科白に、パットは胸が熱くなる。突然の婚約破棄。理由も何もわからない。でも、いくら政略結婚とはいえ、他に愛する人がいる身で結婚するのは、アデラインにも、オーレリアにもどこか後ろめたさがあったのは事実だ。それでもクーヘン伯爵家のためには、平民のアデラインより、貴族令嬢であるオーレリアと結婚する方がいいのはわかりきっている。それに、将来の苦労も違ってくるのは、目に見えて明らかだ。
──でも。
「……はい、父上。母上。ありがとうございます。ぼくは自分でお金を稼いで、アデラインと共に生きます。決して、父上たちにご迷惑をおかけしないことを誓います」
パットの両親は静かに、こくりと頷いた。パットは微笑み、続いて、オーレリアに顔を向けた。
「オーレリア。もう、理由は聞かないことにするよ。きみには本当に、申し訳ないことをしたからね。いくら家のためとはいえ、他に愛する人がいて、その相手の元にせっせと通う婚約者なんて、誰だって嫌だよね──ごめん」
パットが申し訳なさそうに謝罪する。オーレリアは何かを言おうと口を開きかけたが、ぐっと唇を噛みしめ、それを呑み込んだ。
少しして。
「……いえ。どうか、お元気で」
絞り出すように言うと、最後に一つ、力なく笑った。
「え……いい、のですか? ですが、父上たちはあれほど反対して」
クーヘン伯爵は、小さく笑んだ。
「ああ……いいんだ。お前は例えクーヘン伯爵家から除籍されたとしても、アデラインと一緒に生きたいと言った。けれど私たちはお前が……心配で。だが、愛する人がいてもよいと、愛する人の元に通っても笑って許してくれる令嬢は、オーレリア嬢以外にはいないだろう。それに、社交界にも噂は広まるだろうしな。だから──好きにしなさい。それでもお前が私たちの息子であることに変わりはない。それだけは覚えておきなさい」
「……そうよ、パット。学園を卒業したら、自分でお仕事を見つけなければならないけど、困ったことがあったらいつでもわたくしたちを頼っていいのよ……?」
温かい両親の科白に、パットは胸が熱くなる。突然の婚約破棄。理由も何もわからない。でも、いくら政略結婚とはいえ、他に愛する人がいる身で結婚するのは、アデラインにも、オーレリアにもどこか後ろめたさがあったのは事実だ。それでもクーヘン伯爵家のためには、平民のアデラインより、貴族令嬢であるオーレリアと結婚する方がいいのはわかりきっている。それに、将来の苦労も違ってくるのは、目に見えて明らかだ。
──でも。
「……はい、父上。母上。ありがとうございます。ぼくは自分でお金を稼いで、アデラインと共に生きます。決して、父上たちにご迷惑をおかけしないことを誓います」
パットの両親は静かに、こくりと頷いた。パットは微笑み、続いて、オーレリアに顔を向けた。
「オーレリア。もう、理由は聞かないことにするよ。きみには本当に、申し訳ないことをしたからね。いくら家のためとはいえ、他に愛する人がいて、その相手の元にせっせと通う婚約者なんて、誰だって嫌だよね──ごめん」
パットが申し訳なさそうに謝罪する。オーレリアは何かを言おうと口を開きかけたが、ぐっと唇を噛みしめ、それを呑み込んだ。
少しして。
「……いえ。どうか、お元気で」
絞り出すように言うと、最後に一つ、力なく笑った。
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