上 下
2 / 15

2

しおりを挟む
「……やはり、あなたたちはご存知だったのですね」

 これまでの様子から全てを察したヴェッター伯爵夫人が静かに呟く。クーヘン伯爵とクーヘン伯爵夫人は答えない。ただ、クーヘン伯爵の隣に座るパットだけが、訳がわからず動揺していた。

「ど、どういうことですか。父上、母上。何かご存知なのですか?」

 パットが詰め寄るが、二人はなおも無言を貫く。ヴェッター伯爵は、重いため息を一つ、もらした。

「……クーヘン伯爵。貴殿の息子と娘の婚約は破棄させていただく。よろしいですな?」

 クーヘン伯爵より先に声をあげたのは、パットだった。

「ま、待ってください! ぼくとの婚約を破棄してしまえば、援助もなくなります。それで本当によいのですか?!」

「……オーレリアは、大事な娘なのです。それに、慰謝料が入れば、それを元手に何とか──」

「じょ、冗談ではない。アデラインのことはきちんと最初から説明していましたし、慰謝料を払う義務など……っ」

 そこに割って入ったのは、クーヘン伯爵だった。

「……致し方ないですな。慰謝料はお支払いする。だが、このことは決して誰にも話されないよう」

 続けてクーヘン伯爵夫人が「……どうか、お願いします」と頭をさげた。少しの沈黙のあと、オーレリアがそっと口を開いた。

「……それで、本当によいのですか?」

 心配気な声色に、クーヘン伯爵夫人は苦笑した。

「……よくはありませんね。でも、どうしようもないのですよ」

 そう言って、クーヘン伯爵夫人はパットに視線を移した。ただひたすら困惑する息子に、泣き笑いを浮かべる。その様子に、オーレリアはこれ以上追及することを止めた。

「……そう、ですか。あの、それでこれからどうなさるのですか? 次の婚約者を探すのですか?」

「それは……」

 クーヘン伯爵はぐっと口を引き結んだあと、クーヘン伯爵夫人と顔を見合せた。クーヘン伯爵夫人が無言でうなずく。もしかしたら今日の話し合いの内容を、予め予想していたのかもしれない。

「……父上?」

 首を傾げるパットに目線を移したクーヘン伯爵は、迷いながらも、口火を切った。


「──パット。お前は、アデラインと一緒になりなさい」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

彼女は彼の運命の人

豆狸
恋愛
「デホタに謝ってくれ、エマ」 「なにをでしょう?」 「この数ヶ月、デホタに嫌がらせをしていたことだ」 「謝ってくだされば、アタシは恨んだりしません」 「デホタは優しいな」 「私がデホタ様に嫌がらせをしてたんですって。あなた、知っていた?」 「存じませんでしたが、それは不可能でしょう」

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

この声は届かない

豆狸
恋愛
虐げられていた侯爵令嬢は、婚約者である王太子のことが感知できなくなってしまった。 なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

王太子殿下が欲しいのなら、どうぞどうぞ。

基本二度寝
恋愛
貴族が集まる舞踏会。 王太子の側に侍る妹。 あの子、何をしでかすのかしら。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

処理中です...