悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ

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「──少しだけ、時間をもらえますか?」

 数分後に出された返答に、パーシーは首をかしげた。

「時間、かい? どうして?」

「……いまはまだ、何とも言えません」

「? えーっと、時間って、どれぐらいかな?」

「……数日はかかるかと」

 パーシーは不快そうに眉を寄せた。

「カーラ。きみらしくない。嫌なら嫌とはっきり言ってくれ」

「言ったら、彼女のことは諦めるのですか?」

「……大事な言葉が抜けている。助けることを諦める、だよ。ま、諦めないけどね。そんなことをすれば、ぼくは一生後悔するだろうから──きみと違って」

 カーラが、僅かにぴくりと肩を揺らした。パーシーはそれに気付くことなく、続けた。

「まあ、いいさ。よくわからないけど、数日待てば、きみは納得してくれるんだろ? 例えば彼女がぼくの屋敷に泊まりたいと望めば、それも了承してくれるってことだね。うん。それなら、まあ、いいかな」

 勝手に話を進め、勝手に納得するパーシーに、カーラは諦めのように小さくため息をついた。

「……できるだけ早く事を進めます」

「うん。頼むよ」

 うって変わって機嫌がよくなったパーシーは、遅ればせながら、昼食をはじめた。



 ──五日後。

 休日の昼。二人は王都でも評判のカフェにいた。前置きも何もなく、おもむろに調査報告書をテーブルに置いたカーラは「読んでください」とだけパーシーに告げてきた。パーシーが、これは、と聞いても、まず目を通してくださいとだけ答えるカーラ。

 パーシーが渋々といった風にそれに目を通す。時間が経つにつれ、段々と目を吊り上げていくパーシーを、カーラは淡々とした表情で見ていた。


 すると。

「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」

 ぱさっ。
 パーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。ああ、やはり。カーラは冷えた心でこっそり呟き──決意した。

「それではどうぞ、お好きになさいませ」

 吐き捨てるように言うと、パーシーの表情が「! い、いいのかい?!」と輝いた。どうしようもない男だと知ってはいたが、ここまで馬鹿だとは思わなかった。

「ええ。かまいませんとも」

「あ、ありがとう。きみなら理解してくれると信じていたよ。言うまでもないことだけど、ぼくが愛しているのは、きみだけだから」

 どの口が言っているのか。思ったが、カーラは口には出さなかった。


 もはや、こんな男にかまっている時間などなかったから。
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