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「明日のデートプランを、一緒に考えてほしいんだけど……」

 オーブリーが頼ったのは、屋敷にいる執事だった。年配の執事は、はてと首を傾げた。

「どうされました、突然にそのようなこと。デートプランなど、これまで一度も考えたことなどなかったではないですか」

「……いや、まあ」

「心配なさらずとも、ミラベル様なら、どのようなデートでも喜んでくださいますよ。それともなにか、特別な日でしたかな?」

 ぎくっ。
 オーブリーが動揺から、肩を揺らす。まだ屋敷の誰にも、ミラベルと婚約解消すること、マルヴィナという子爵令嬢と付き合うことにしたことなど、伝えていなかったから。

「……そうじゃないんだけど。たまには、ちゃんとそういうこと考えた方がいいかなって」

「なるほど。しかしそれなら、なおさらオーブリー様がお一人で考えた方がよいかと。その方が、ミラベル様はきっと喜んでくれます。そういうお方ですから」

 ミラベルと長年の付き合いがあるのは、執事も同じ。完全に信用しきっているその言葉に、胃がきりっと痛んだ。

「……そうだね。頑張って考えてみるよ」

 言い残し、オーブリーは自室へと戻った。机に向かい、紙とペンを出す。

「……デートプランより先に、父上への手紙を書かないとな」

 オーブリーの中で。たとえミラベルとの婚約は解消されても、幼馴染みであることに変わりはないという認識があった。だから、相談を持ちかけた。

 でも、ミラベルはそうではなかったらしい。

「……そうとう怒ってたな。できるだけ傷付けないように言葉を選んだつもりだったんだけど」

 謝ればやり直せると思っていたが、それはもう、無理なようだ。ようやく思い知ったオーブリーは覚悟を決め、マルヴィナとの婚約を認めてもらえるよう、コスタ伯爵宛の手紙の内容を考えはじめた。


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