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 無理やり連れて来られた鉱山から、何度も何度も逃げだそうとしたハワード。けれど、給金の半分以上はベイル子爵に取られるうえ、仕事のあとは、逃げ出す体力も残されていなかった。そんな生活の中、少しずつ少しずつ体力とお金をためていったハワードは、耐えに耐え抜いた六年後、ついに、そこから逃げ出すことに成功した。

 毎日コツコツと貯めたお金を手に、ファネル伯爵の領地に、徒歩と馬車で向かう。このときのハワードは、まだ前の生活に戻れることを疑ってはいなかった。

(……待っててくれ、リネット。いま帰るよ)

 ハワードは何日も何日もかけて、ファネル伯爵の領地へと戻ってきた。懐かしい光景に、ハワードの涙腺が緩む。

「……ようやく、帰れたんだ」

 感極まり、一人呟く。

 ──と。

 賑わう、日の光に照らされた街中。

 見覚えのある顔が、こちらに向かって歩いてきた。その後ろにも、見知った顔の護衛の男。

「……リネットっ」

 掠れた声で名を呼び、駆け出す。リネットが気付いたように、軽く手を上げた。

 ──ああ、ほら。やっぱり。リネットはぼくを待っていてくれたんだ。

 長旅で悲鳴を上げる足を必死に動かす。

 あと少し。あと少しで、届く。


「ルシアン」


 すっとハワードの横を通り抜けたリネットは、そう言った。目を丸くしながらゆっくり振り向くと、少し離れた背後に、馬車が待機していた。中から、小さな男の子が笑顔で出てくる。

「おかあさま、おかいものはおわりましたか?」

「ええ。おまたせ、ルシアン。さあ、今度はあなたが楽しみにしていたお店に行きましょうか」

「やったあ」

 目の前で交わされる会話に、ハワードの目が見開いていく。

(……ルシアン? この子が……)

 愛しいとか。そんな感情はわいてこなくて。ただ、あの赤ん坊だった子がこんなに大きくなっていることが、不思議で仕方なかった。

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