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 夕食を終えたファネル伯爵とファネル伯爵夫人は、応接室にて、食後のお茶を楽しんでいた。

 優雅に流れる時間に、突然、喚き声が廊下から響いてきた。それは縄で縛られたハワードのもので。応接室に入り、ようやっと肩から下ろされたハワードの顔は、真っ青だった。

「リネット……きみの気持ちは充分に伝わったよ。悪かった。ぼくは心から反省した。だからもう、帰ろう。ね?」

 縄で縛られたままのハワードが、リネットにフラフラと近付く。リネットはそれをふいっとかわすと、両親に宣言した。

「わたし、ハワードと離縁することに決めました。理由は、いまから説明します」

 ギョッとする両親が口を開く前に、ハワードが必死に訴えかけてきた。

「……い、いいのか! 本当に、ぼくと別れても!?」

 しつこい。リネットが吐き出した台詞に、ファネル伯爵たちは唖然とした。こんな態度をとる娘を──ましてベタ惚れなはずのハワードに対して──はじめて見たから。

 これはよほどのことがあったのだろう。ファネル伯爵とファネル伯爵夫人は顔をそっと見合わせた。

「──とにかく、話を聞こう」

「ま、待ってください、ファネル伯爵!」

 まだ抵抗するハワードの口に、リネットはハンカチを無理やりねじ込んだ。

 ?!

 全員が目を見開くなか、リネットは懐から一冊のノートを取り出し、ハワードに見せた。

「これはね。あなたと結婚したときからつけはじめた日記なの。あなたが吐いた、わたしへの暴言も、すべて書き記してあるわ」

 もがもがとしか言えないハワードの代わりのように、ファネル伯爵夫人が「暴言?」と、眉をしかめた。

「そうです、お母様。例えば、これ──九月七日。つわりが酷いとき、食欲が失せるからそれが収まるまでしばらくぼくの傍に来ないでくれとハワードに言われた。そう、記されています」

 これまでハワードの表の顔しか見てこなかったファネル伯爵たちは、愕然としていた。対してハワードの顔色は、さきほどとは比べものにならないほど、さらに青く、血の気が失せてしまっていた。


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