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「──ハワード。とりあえずあなたの分のお夕食はないから、今日はいつも通り、外で食べてきてくれる?」

「……は?」

「一緒に寝てもらわなくて結構だから、帰りは深夜でもかまわないわ」

 きっぱり告げたリネットに、ハワードだけだなく、その場にいた全員がぽかんとしていた。

「……冗談、だよね」
  
 掠れた問いに、リネットが「どれが冗談に聞こえたの?」と、真面目に返す。

「……全部だよ。ねえ、ほんとに変だ。きみ、ほんとに本物のリネット? 偽者じゃない?」

「どうしてそう思ったの?」

「……ぼくを一番に愛して、ぼくに酷いことを言ったりしない。それがぼくの知るリネットだ」

 リネットは、はあ、と大きくため息をついた。

「あなたをそんな風にしてしまったのは、わたし? それとも、ご両親?」

「……きみがなにを言っているのか、わからない」

 鼻をすするハワードに、リネットを含めた全員が、嫌悪感を抱きはじめたとき。

「お嬢様。ルシアンお坊ちゃまが目を覚まされました」

 食堂の扉を開けたのは、マドリンだった。続いて、ルシアンを抱いた乳母も入ってくる。

「まあ。さっき寝たばかりだから、もうしばらくは目を覚まさないと思ったのに」

 ぱあっと表情を変えたリネットに、乳母が近付く。マドリンは、なぜこの時間にハワードがいるのかと、訝しんでいる様子だった。

「まだお食事の途中だとは思ったのですが、ルシアンお坊ちゃまの機嫌も良さそうでしたし、なにより、奥様が拗ねてしまうかと思いまして」

 乳母が笑い、ルシアンを抱いたまま腰を屈める。ルシアンの顔を覗き込みながら、リネットも頬を緩める。

「ふふ、そうね。ルシアンの成長を一瞬でも逃したら、きっとずっと後悔してしまうもの」

「だと思いました。お食事が終わるまでは、私が抱っこしてますね」

「ありがとう。その後は、あなたがゆっくりお食事してね」

 流れるほんわかムードに、除け者にされたかのような気分になったハワードが、怒りで顔を真っ赤にさせた。


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