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「これによると、ほぼ毎日のようにその女のところには、通っているみたいだね。いまランドルの屋敷で働いている使用人たちからも話しは聞けたようだけど……評判は最悪だ」

 テーブルの上に並べられた、調査報告書の紙の中から一枚を取り上げ、ハロルドが呟く。ハロルドの屋敷にある応接室に集まった、前回と同じメンバーが、それぞれの話しに耳を傾けつつ、調査報告書に目を通している。

「シンディーの家の近くの住人によると、シンディーはランドルが来ない時間帯は、複数の男を家に招き入れ、床を共にしているという。男に無理やり襲われて出来た子どもというのは、おそらく嘘……」

 セシリアが一枚の報告書を読み上げると、みな、愕然としたように固まった。そして、全ての報告書を読み終えたセシリアたちは、しばらく呆然としていた。最初に口火を切ったのは、ハーン伯爵夫人だった。

「──あなた。よろしいですね。ランドルはハーン伯爵家から離籍してもらいます」

 ハーン伯爵は「……仕方あるまい」と頭を抱えた。しばらくして。ハロルドが別に用意していたであろうもう一枚の報告書をテーブルに置いた。セシリアが首をかしげる。

「ハロルド様、これは?」

「昔の事件を調べてもらった結果だよ。兄上の屋敷から、そう遠くないところで起きた、使用人殺しの事件のね」

 ハーン伯爵が、はたと顔をあげた。

「──ポック伯爵家で起きた事件のことか?」

「あたりです、さすが兄上」

「何で今さら、そんな昔の事件を……」

「兄上は、どんな事件だったか覚えていますか?」

 ハーン伯爵は、おもむろに腕を組んだ。

「屋敷に勤めていた使用人が、雇い主に殺された事件だろう。その後、ポック伯爵家の者が他の使用人にも、日常的に暴行を加えていたことがわかり、伯爵とその夫人は処刑されたはずだ」

「そうです。当時、まだ六歳だったポック伯爵の唯一の子どもだった長女も、使用人に熱湯をかけたり、ナイフを投げつけたりしていたと、使用人が証言しました。けれどまだ子どもだったことから、罪にはならなかった──その長女の名は、シンディー」

 ?!

 セシリアが青ざめながら「そ、そんな恐ろしいことをしていたシンディーという子どもが、あのシンディーと同一人物なのですか……?」

「まだはっきりと断定は出来ないけど。近所の人は、誰も彼女のフルネームを知らないようだったしね」

「……とりあえず、その問題はいったん置いておくとしましょう。一番大事なことは、こうして知れたわけですから」

 そう言って話を切ったハーン伯爵夫人は、すくっと立ち上がり、セシリアに向かって頭をさげた。

「セシリア。何も気付いてあげられなくて、本当にごめんなさい」

「そ、そんな。頭をあげてください!」

 するとハーン伯爵も立ち上がり、頭をさげはじめた。セシリアはパニックになりそうだった。

「兄上。義姉上。セシリアが泣きそうですよ。そろそろ頭をあげて」

 ハロルドに促され、二人がようやく頭をあげた。セシリアがほっと胸を撫で下ろすのを見て、ハロルドは頬を緩めた。

「さて。それじゃ明日にでも、ランドルにはわたしの屋敷に来てもらうとしようか」

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