上 下
29 / 34

29

しおりを挟む
 ──ひと月ほど前。

 大事な話しがある。そう言って、セシリアはアルマが屋敷に来てくれたその日に、ハロルドとリチャード、そしてランドルの両親に、屋敷に集まってもらった。そこでセシリアは、全てをぶちまけた。ランドルと婚約してからの日々。扱い。シンディーのことも、むろん思い付く限りのことを話した。数日前に、無茶苦茶なうえに身勝手過ぎる理由で、再婚を迫られたことまで、一切合切を話しまくった。

「突然、すみません。信じられなくても仕方ありませんが、これが事実なんです。お墓まで持っていくつもりでしたが……ランドル様はまだ、わたしを利用することを諦めていないようでしたので」

 謝罪しながら腰を折るセシリアの横で、アルマが必死に声をあげる。

「私はお二人が結婚してからのことしか存じませんが、奥様のおっしゃったことは全て事実だと確信出来ます。何なら、屋敷にいる馭者の男にも話を聞いてみてください。あの人の方が、よく知っていますから!」

 四人は、絶句していた。信じられない。そういった双眸をしていた。いや。セシリアよりもランドルを信じているわけではない。ただ、その内容があまりにも卑劣で、ランドルの人間性を疑わずにはいられないものだったから。

「……あのこと、とは。これだったのか」

 愕然と口元をおさえるハロルド。すみません。セシリアが再度、頭を下げる。ハロルドはそんなセシリアの背に手を添えた。

「きみは何も悪くないよ。ほら、身体にさわるから椅子に座って」

「……はい」

 静かに、椅子に腰かけるセシリア。すると正面に座るハーン伯爵夫人が、ゆらりと口を開いた。

「──あなた」

 隣に座るハーン伯爵がびくっと肩を揺らした。

「あなたも聞きましたね?」

「い、いや。でも、証拠もないことだし……」

 ハーン伯爵夫人は「は?」と目を尖らせた。

「自分の妻にあんな酷いことを言う子なのですよ。それなのにあなたはまだ……っ」

「まあまあ、義姉上。なら、兄上が納得出来る証拠を集めればよいではありませんか」

「ハロルドまで何を甘いことを──あら」

 ハロルドを怒鳴ろうとしたハーン伯爵夫人だったが、ハロルドの表情を見て、止めた。笑っているのに、怒りが頂点に達しているような。そんなある種の恐ろしい顔をしていたから。

「あの、ハロルド様。そこまでしてもらわなくても……」

「駄目だよ、セシリア。こういうことは徹底的にやらないと。それほどまでに依存している相手なら、まだ関係は続いているだろうし、身辺を調査すればすぐに証拠なんて掴める。それに、少し気になることもあるしね」

「気になること?」

「そう──兄上」

 急に呼び掛けられたハーン伯爵が「な、何だ?」と若干戸惑いながら答える。

「シンディーという名に、覚えはありませんか?」

「……ん?」

 はて。ハーン伯爵が首をかしげる。その場にいる者が、驚いたようにハロルドたちに視線を集めた。

「ハロルド様たちは、シンディーをご存知なのですか?!」

 驚愕に声をあげるセシリア。ハロルドが「うーん」と唸りながら腕を組んだ。そして、

「いや、わたしの勘違いかもしれないから。ランドルの身辺調査と合わせて、そのこともきちんと調べてから言うよ」

 と、言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。 疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。 そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?

この傷を見せないで

豆狸
恋愛
令嬢は冤罪で処刑され過去へ死に戻った。 なろう様でも公開中です。

婚約者は幼馴染みを選ぶようです。

香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。 結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。 ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。 空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。 ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。 ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

処理中です...