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──ひと月ほど前。
大事な話しがある。そう言って、セシリアはアルマが屋敷に来てくれたその日に、ハロルドとリチャード、そしてランドルの両親に、屋敷に集まってもらった。そこでセシリアは、全てをぶちまけた。ランドルと婚約してからの日々。扱い。シンディーのことも、むろん思い付く限りのことを話した。数日前に、無茶苦茶なうえに身勝手過ぎる理由で、再婚を迫られたことまで、一切合切を話しまくった。
「突然、すみません。信じられなくても仕方ありませんが、これが事実なんです。お墓まで持っていくつもりでしたが……ランドル様はまだ、わたしを利用することを諦めていないようでしたので」
謝罪しながら腰を折るセシリアの横で、アルマが必死に声をあげる。
「私はお二人が結婚してからのことしか存じませんが、奥様のおっしゃったことは全て事実だと確信出来ます。何なら、屋敷にいる馭者の男にも話を聞いてみてください。あの人の方が、よく知っていますから!」
四人は、絶句していた。信じられない。そういった双眸をしていた。いや。セシリアよりもランドルを信じているわけではない。ただ、その内容があまりにも卑劣で、ランドルの人間性を疑わずにはいられないものだったから。
「……あのこと、とは。これだったのか」
愕然と口元をおさえるハロルド。すみません。セシリアが再度、頭を下げる。ハロルドはそんなセシリアの背に手を添えた。
「きみは何も悪くないよ。ほら、身体にさわるから椅子に座って」
「……はい」
静かに、椅子に腰かけるセシリア。すると正面に座るハーン伯爵夫人が、ゆらりと口を開いた。
「──あなた」
隣に座るハーン伯爵がびくっと肩を揺らした。
「あなたも聞きましたね?」
「い、いや。でも、証拠もないことだし……」
ハーン伯爵夫人は「は?」と目を尖らせた。
「自分の妻にあんな酷いことを言う子なのですよ。それなのにあなたはまだ……っ」
「まあまあ、義姉上。なら、兄上が納得出来る証拠を集めればよいではありませんか」
「ハロルドまで何を甘いことを──あら」
ハロルドを怒鳴ろうとしたハーン伯爵夫人だったが、ハロルドの表情を見て、止めた。笑っているのに、怒りが頂点に達しているような。そんなある種の恐ろしい顔をしていたから。
「あの、ハロルド様。そこまでしてもらわなくても……」
「駄目だよ、セシリア。こういうことは徹底的にやらないと。それほどまでに依存している相手なら、まだ関係は続いているだろうし、身辺を調査すればすぐに証拠なんて掴める。それに、少し気になることもあるしね」
「気になること?」
「そう──兄上」
急に呼び掛けられたハーン伯爵が「な、何だ?」と若干戸惑いながら答える。
「シンディーという名に、覚えはありませんか?」
「……ん?」
はて。ハーン伯爵が首をかしげる。その場にいる者が、驚いたようにハロルドたちに視線を集めた。
「ハロルド様たちは、シンディーをご存知なのですか?!」
驚愕に声をあげるセシリア。ハロルドが「うーん」と唸りながら腕を組んだ。そして、
「いや、わたしの勘違いかもしれないから。ランドルの身辺調査と合わせて、そのこともきちんと調べてから言うよ」
と、言った。
大事な話しがある。そう言って、セシリアはアルマが屋敷に来てくれたその日に、ハロルドとリチャード、そしてランドルの両親に、屋敷に集まってもらった。そこでセシリアは、全てをぶちまけた。ランドルと婚約してからの日々。扱い。シンディーのことも、むろん思い付く限りのことを話した。数日前に、無茶苦茶なうえに身勝手過ぎる理由で、再婚を迫られたことまで、一切合切を話しまくった。
「突然、すみません。信じられなくても仕方ありませんが、これが事実なんです。お墓まで持っていくつもりでしたが……ランドル様はまだ、わたしを利用することを諦めていないようでしたので」
謝罪しながら腰を折るセシリアの横で、アルマが必死に声をあげる。
「私はお二人が結婚してからのことしか存じませんが、奥様のおっしゃったことは全て事実だと確信出来ます。何なら、屋敷にいる馭者の男にも話を聞いてみてください。あの人の方が、よく知っていますから!」
四人は、絶句していた。信じられない。そういった双眸をしていた。いや。セシリアよりもランドルを信じているわけではない。ただ、その内容があまりにも卑劣で、ランドルの人間性を疑わずにはいられないものだったから。
「……あのこと、とは。これだったのか」
愕然と口元をおさえるハロルド。すみません。セシリアが再度、頭を下げる。ハロルドはそんなセシリアの背に手を添えた。
「きみは何も悪くないよ。ほら、身体にさわるから椅子に座って」
「……はい」
静かに、椅子に腰かけるセシリア。すると正面に座るハーン伯爵夫人が、ゆらりと口を開いた。
「──あなた」
隣に座るハーン伯爵がびくっと肩を揺らした。
「あなたも聞きましたね?」
「い、いや。でも、証拠もないことだし……」
ハーン伯爵夫人は「は?」と目を尖らせた。
「自分の妻にあんな酷いことを言う子なのですよ。それなのにあなたはまだ……っ」
「まあまあ、義姉上。なら、兄上が納得出来る証拠を集めればよいではありませんか」
「ハロルドまで何を甘いことを──あら」
ハロルドを怒鳴ろうとしたハーン伯爵夫人だったが、ハロルドの表情を見て、止めた。笑っているのに、怒りが頂点に達しているような。そんなある種の恐ろしい顔をしていたから。
「あの、ハロルド様。そこまでしてもらわなくても……」
「駄目だよ、セシリア。こういうことは徹底的にやらないと。それほどまでに依存している相手なら、まだ関係は続いているだろうし、身辺を調査すればすぐに証拠なんて掴める。それに、少し気になることもあるしね」
「気になること?」
「そう──兄上」
急に呼び掛けられたハーン伯爵が「な、何だ?」と若干戸惑いながら答える。
「シンディーという名に、覚えはありませんか?」
「……ん?」
はて。ハーン伯爵が首をかしげる。その場にいる者が、驚いたようにハロルドたちに視線を集めた。
「ハロルド様たちは、シンディーをご存知なのですか?!」
驚愕に声をあげるセシリア。ハロルドが「うーん」と唸りながら腕を組んだ。そして、
「いや、わたしの勘違いかもしれないから。ランドルの身辺調査と合わせて、そのこともきちんと調べてから言うよ」
と、言った。
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