23 / 34
23
しおりを挟む
それからひと月後。
ランドルはご機嫌でハロルドの屋敷に向かっていた。昨夜、待ちに待ったセシリアからの連絡が来たからだ。話し合いはうまくいった。ランドルの両親も呼んだから、ハロルドの屋敷に今日の昼頃に来てほしいとの内容だった。
(ああ、これでようやくあのわがままな使用人たちを辞めさせることができる。そしてシンディーにも、満足な金を渡せる)
「旦那様、着きましたよ」
馴染みの馭者から声をかけられたランドルは「ああ」と弾む声で答え、馬車からおりた。屋敷の外にはすでにリチャードがいて、優雅な仕草で腰を折っていた。
「お待ちしておりました、ランドル様」
「あ、ああ」
にこやかな出迎えに、ランドルは困惑していた。セシリアとの復縁を、両親は祝ってくれるだろうとは思っていたが、さすがにハロルドの使用人は怒るか悔しがるだろうと考えていたからだ。
(何だ。こいつも、わかっていたのか。セシリアに相応しいのは、僕だということを)
ふふん。
胸を張るランドルが、屋敷に向かう。するとリチャードが、馭者の男に「あなたも中にどうぞ」と言っていた。少し不思議に思ったものの、ランドルはまあいいかと、導かれるまま応接室に向かった。
そこにはセシリアとハロルド。ランドルの両親がいた。そして一人、意外な人物も。
「お前は……」
目を点にするランドルに、セシリアの背後に立ったアルマが「お久しぶりです」と、軽く会釈してきた。
「……どうしてここにいるんだ?」
戸惑うランドルに答えたのは、セシリアだった。
「アルマとは、ずっと手紙のやり取りをしていたんです。アルマは他のお屋敷で働いていたのですが、もうすぐ子どもも産まれますし、ハロルド様もずっと、使用人を増やした方がいいとおっしゃってくれていたので……思いきって、アルマにこのお屋敷に来てくれないかと頼んでみたら、二つ返事で了承してくれて」
「当たり前ではないですか。私、奥様がそう言ってくださるの、ずっと待っていたのですよ?」
「ありがとうございます、アルマ」
二人のやり取りに、ランドルがぽかんとする。ランドルがすれば、勝手に使用人を増やしたセシリアの行動が、理解不能だったから。だが両親がいる手前、責めることも出来ない。
「セ、セシリア。きみは叔父上の子を産んだら、この屋敷を出ていくことになるのだから、そんな身勝手なことをしたら駄目じゃないか。僕の屋敷にはもう充分過ぎるほどの使用人がいるから、アルマはもう、雇ってあげられないんだよ?」
感情を抑え、あくまで優しく諭す。自身を褒めてあげたい。そんな風に考えていたランドルだったが──室内が一瞬、凍りついたような錯覚がした。
ランドルはご機嫌でハロルドの屋敷に向かっていた。昨夜、待ちに待ったセシリアからの連絡が来たからだ。話し合いはうまくいった。ランドルの両親も呼んだから、ハロルドの屋敷に今日の昼頃に来てほしいとの内容だった。
(ああ、これでようやくあのわがままな使用人たちを辞めさせることができる。そしてシンディーにも、満足な金を渡せる)
「旦那様、着きましたよ」
馴染みの馭者から声をかけられたランドルは「ああ」と弾む声で答え、馬車からおりた。屋敷の外にはすでにリチャードがいて、優雅な仕草で腰を折っていた。
「お待ちしておりました、ランドル様」
「あ、ああ」
にこやかな出迎えに、ランドルは困惑していた。セシリアとの復縁を、両親は祝ってくれるだろうとは思っていたが、さすがにハロルドの使用人は怒るか悔しがるだろうと考えていたからだ。
(何だ。こいつも、わかっていたのか。セシリアに相応しいのは、僕だということを)
ふふん。
胸を張るランドルが、屋敷に向かう。するとリチャードが、馭者の男に「あなたも中にどうぞ」と言っていた。少し不思議に思ったものの、ランドルはまあいいかと、導かれるまま応接室に向かった。
そこにはセシリアとハロルド。ランドルの両親がいた。そして一人、意外な人物も。
「お前は……」
目を点にするランドルに、セシリアの背後に立ったアルマが「お久しぶりです」と、軽く会釈してきた。
「……どうしてここにいるんだ?」
戸惑うランドルに答えたのは、セシリアだった。
「アルマとは、ずっと手紙のやり取りをしていたんです。アルマは他のお屋敷で働いていたのですが、もうすぐ子どもも産まれますし、ハロルド様もずっと、使用人を増やした方がいいとおっしゃってくれていたので……思いきって、アルマにこのお屋敷に来てくれないかと頼んでみたら、二つ返事で了承してくれて」
「当たり前ではないですか。私、奥様がそう言ってくださるの、ずっと待っていたのですよ?」
「ありがとうございます、アルマ」
二人のやり取りに、ランドルがぽかんとする。ランドルがすれば、勝手に使用人を増やしたセシリアの行動が、理解不能だったから。だが両親がいる手前、責めることも出来ない。
「セ、セシリア。きみは叔父上の子を産んだら、この屋敷を出ていくことになるのだから、そんな身勝手なことをしたら駄目じゃないか。僕の屋敷にはもう充分過ぎるほどの使用人がいるから、アルマはもう、雇ってあげられないんだよ?」
感情を抑え、あくまで優しく諭す。自身を褒めてあげたい。そんな風に考えていたランドルだったが──室内が一瞬、凍りついたような錯覚がした。
257
お気に入りに追加
3,607
あなたにおすすめの小説
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。
香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。
疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。
そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
「……あなた誰?」自殺を図った妻が目覚めた時、彼女は夫である僕を見てそう言った
Kouei
恋愛
大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った妻。
侍女の発見が早かったため一命を取り留めたが、
4日間意識不明の状態が続いた。
5日目に意識を取り戻し、安心したのもつかの間。
「……あなた誰?」
目覚めた妻は僕と過ごした三年間の記憶を全て忘れていた。
僕との事だけを……
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
あなたの仰ってる事は全くわかりません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。
しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。
だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。
全三話
婚約者は幼馴染みを選ぶようです。
香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。
結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。
ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。
空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。
ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。
ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる