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「お、お前……夫である僕の前でよくもそんなことが言えたものだな!?」

 顔を真っ赤にして怒るランドル。セシリアは驚くと同時に、呆れていた。自分は一度だって愛してくれなかったくせに、セシリアには愛せと言わんばかりの口振りだ。この人も、大概醜い。案外、似た者夫婦だったのかしら。セシリアは苦笑した。

(……うん。わたし、もうこの人のこと愛してないわ。どころか、もう顔も見たくないほどに嫌悪している)

 認めてしまえば、何だか心が軽くなった。セシリアはランドルに向かってゆっくりと腰をおり、静かに口火を切った。

「ランドル様。わたしと、離縁してください」

「……は?」

「わたし、目が覚めました。あなたとあの屋敷に戻るぐらいなら、死んだ方がましです。だからお願いします。離縁してもらえるなら、あのことは、お墓まで持っていくとお約束します」

 ハロルドとリチャードが眉をひそめるなか、ランドルはカッと目をむいた。

「……貴様! 僕を脅すつもりか?!」

「どう取ってもらっても、どう思われても構いません。離縁してくれないのなら、ここで、全てを話します」

「お、お前の言うことなど、誰が信じるものか!」

「──本当に、そう思うか?」

 ハロルドが腕を組み、ランドルを睨む。ランドルが顔面蒼白になるのを見て、ハロルドはセシリアに視線を移した。

「あのことが何か知らないけど……そんな約束しなくても、きっと離縁はできるよ。わたしも力になる」

「ありがとうございます。でも、出来ればランドル様には納得して離縁してもらいたいのです」

「脅迫しておいて何を……っ」

 セシリアは顔を大きく歪めるランドルを見据え「ランドル様は、あのことが脅迫になると思っているのですね」と呟いた。

 ランドルが手を振り上げる。咄嗟に目を瞑ったセシリアだったが、その手はセシリアに届く前に、ハロルドによって掴まれていた。

「女性に手をあげるとは。どこまでも腐っているな、ランドル」

「先に脅迫してきたのはセシリアです!」

「では、聞こうか。お前が脅迫されている内容をな」

「……っ」

 ランドルはハロルドの手を乱暴に振り払い「もういい!」と吐き捨てた。

「子を産めないお前など、何の価値もない。貴様のような出来損ないなど、こちらから捨ててやるさ」

「お前……っ」

 ランドルに食って掛かろうとするハロルドを、セシリアは笑顔で止めると「ありがとうございます、ランドル様」と、腰をおった。

 舌打ちしながらランドルが玄関扉に向かう。その肩をハロルドが後ろから掴んだ。ギロッ。ランドルが振り返りながら睨み付ける。

「まだ何か用ですか?!」

「ああ。これから、一緒に兄上のところに行くぞ。そこで離縁状を書いてもらう」

「な……っ」

「もはや、お前の全てが信用出来ない。離縁の原因も、自分の都合のいいようにしか言わないつもりだろう。わたしが見たお前の本性、全て兄上たちに報告させてもらう──それも、一部なんだろうがな」

「そ、そんな……ハロルド様はお仕事から帰宅したばかりで、お疲れなのに」

 もはやハロルドのことしか頭にないセシリア。怒りでランドルのこめかみに血管が浮きあがる。

「お前は黙って──い……っ!!」

 ハロルドに右腕を後ろに締め上げられたランドルが苦痛にあえぐ。

「黙るのはお前だ、ランドル。セシリア、心配しなくていい。明日、仕事は休みだ。それに、こうなった以上は一日でも早く兄上に報告した方がいい──リチャード」

 はい。リチャードが頭をたれる。

「わたしが戻るまで、セシリアを見張っていてくれ。この子はすぐに、此処を出ていこうとするから」

 図星をつかれたように、セシリアは肩を揺らした。リチャードが「お任せください」と口角をあげる。

「では、行ってくる。セシリア。屋敷に戻ってきたら、きちんと話そう」

 そう言い残し、ハロルドとランドルは屋敷を後にした。

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