19 / 34
19
しおりを挟む
「お、お前……夫である僕の前でよくもそんなことが言えたものだな!?」
顔を真っ赤にして怒るランドル。セシリアは驚くと同時に、呆れていた。自分は一度だって愛してくれなかったくせに、セシリアには愛せと言わんばかりの口振りだ。この人も、大概醜い。案外、似た者夫婦だったのかしら。セシリアは苦笑した。
(……うん。わたし、もうこの人のこと愛してないわ。どころか、もう顔も見たくないほどに嫌悪している)
認めてしまえば、何だか心が軽くなった。セシリアはランドルに向かってゆっくりと腰をおり、静かに口火を切った。
「ランドル様。わたしと、離縁してください」
「……は?」
「わたし、目が覚めました。あなたとあの屋敷に戻るぐらいなら、死んだ方がましです。だからお願いします。離縁してもらえるなら、あのことは、お墓まで持っていくとお約束します」
ハロルドとリチャードが眉をひそめるなか、ランドルはカッと目をむいた。
「……貴様! 僕を脅すつもりか?!」
「どう取ってもらっても、どう思われても構いません。離縁してくれないのなら、ここで、全てを話します」
「お、お前の言うことなど、誰が信じるものか!」
「──本当に、そう思うか?」
ハロルドが腕を組み、ランドルを睨む。ランドルが顔面蒼白になるのを見て、ハロルドはセシリアに視線を移した。
「あのことが何か知らないけど……そんな約束しなくても、きっと離縁はできるよ。わたしも力になる」
「ありがとうございます。でも、出来ればランドル様には納得して離縁してもらいたいのです」
「脅迫しておいて何を……っ」
セシリアは顔を大きく歪めるランドルを見据え「ランドル様は、あのことが脅迫になると思っているのですね」と呟いた。
ランドルが手を振り上げる。咄嗟に目を瞑ったセシリアだったが、その手はセシリアに届く前に、ハロルドによって掴まれていた。
「女性に手をあげるとは。どこまでも腐っているな、ランドル」
「先に脅迫してきたのはセシリアです!」
「では、聞こうか。お前が脅迫されている内容をな」
「……っ」
ランドルはハロルドの手を乱暴に振り払い「もういい!」と吐き捨てた。
「子を産めないお前など、何の価値もない。貴様のような出来損ないなど、こちらから捨ててやるさ」
「お前……っ」
ランドルに食って掛かろうとするハロルドを、セシリアは笑顔で止めると「ありがとうございます、ランドル様」と、腰をおった。
舌打ちしながらランドルが玄関扉に向かう。その肩をハロルドが後ろから掴んだ。ギロッ。ランドルが振り返りながら睨み付ける。
「まだ何か用ですか?!」
「ああ。これから、一緒に兄上のところに行くぞ。そこで離縁状を書いてもらう」
「な……っ」
「もはや、お前の全てが信用出来ない。離縁の原因も、自分の都合のいいようにしか言わないつもりだろう。わたしが見たお前の本性、全て兄上たちに報告させてもらう──それも、一部なんだろうがな」
「そ、そんな……ハロルド様はお仕事から帰宅したばかりで、お疲れなのに」
もはやハロルドのことしか頭にないセシリア。怒りでランドルのこめかみに血管が浮きあがる。
「お前は黙って──い……っ!!」
ハロルドに右腕を後ろに締め上げられたランドルが苦痛にあえぐ。
「黙るのはお前だ、ランドル。セシリア、心配しなくていい。明日、仕事は休みだ。それに、こうなった以上は一日でも早く兄上に報告した方がいい──リチャード」
はい。リチャードが頭をたれる。
「わたしが戻るまで、セシリアを見張っていてくれ。この子はすぐに、此処を出ていこうとするから」
図星をつかれたように、セシリアは肩を揺らした。リチャードが「お任せください」と口角をあげる。
「では、行ってくる。セシリア。屋敷に戻ってきたら、きちんと話そう」
そう言い残し、ハロルドとランドルは屋敷を後にした。
顔を真っ赤にして怒るランドル。セシリアは驚くと同時に、呆れていた。自分は一度だって愛してくれなかったくせに、セシリアには愛せと言わんばかりの口振りだ。この人も、大概醜い。案外、似た者夫婦だったのかしら。セシリアは苦笑した。
(……うん。わたし、もうこの人のこと愛してないわ。どころか、もう顔も見たくないほどに嫌悪している)
認めてしまえば、何だか心が軽くなった。セシリアはランドルに向かってゆっくりと腰をおり、静かに口火を切った。
「ランドル様。わたしと、離縁してください」
「……は?」
「わたし、目が覚めました。あなたとあの屋敷に戻るぐらいなら、死んだ方がましです。だからお願いします。離縁してもらえるなら、あのことは、お墓まで持っていくとお約束します」
ハロルドとリチャードが眉をひそめるなか、ランドルはカッと目をむいた。
「……貴様! 僕を脅すつもりか?!」
「どう取ってもらっても、どう思われても構いません。離縁してくれないのなら、ここで、全てを話します」
「お、お前の言うことなど、誰が信じるものか!」
「──本当に、そう思うか?」
ハロルドが腕を組み、ランドルを睨む。ランドルが顔面蒼白になるのを見て、ハロルドはセシリアに視線を移した。
「あのことが何か知らないけど……そんな約束しなくても、きっと離縁はできるよ。わたしも力になる」
「ありがとうございます。でも、出来ればランドル様には納得して離縁してもらいたいのです」
「脅迫しておいて何を……っ」
セシリアは顔を大きく歪めるランドルを見据え「ランドル様は、あのことが脅迫になると思っているのですね」と呟いた。
ランドルが手を振り上げる。咄嗟に目を瞑ったセシリアだったが、その手はセシリアに届く前に、ハロルドによって掴まれていた。
「女性に手をあげるとは。どこまでも腐っているな、ランドル」
「先に脅迫してきたのはセシリアです!」
「では、聞こうか。お前が脅迫されている内容をな」
「……っ」
ランドルはハロルドの手を乱暴に振り払い「もういい!」と吐き捨てた。
「子を産めないお前など、何の価値もない。貴様のような出来損ないなど、こちらから捨ててやるさ」
「お前……っ」
ランドルに食って掛かろうとするハロルドを、セシリアは笑顔で止めると「ありがとうございます、ランドル様」と、腰をおった。
舌打ちしながらランドルが玄関扉に向かう。その肩をハロルドが後ろから掴んだ。ギロッ。ランドルが振り返りながら睨み付ける。
「まだ何か用ですか?!」
「ああ。これから、一緒に兄上のところに行くぞ。そこで離縁状を書いてもらう」
「な……っ」
「もはや、お前の全てが信用出来ない。離縁の原因も、自分の都合のいいようにしか言わないつもりだろう。わたしが見たお前の本性、全て兄上たちに報告させてもらう──それも、一部なんだろうがな」
「そ、そんな……ハロルド様はお仕事から帰宅したばかりで、お疲れなのに」
もはやハロルドのことしか頭にないセシリア。怒りでランドルのこめかみに血管が浮きあがる。
「お前は黙って──い……っ!!」
ハロルドに右腕を後ろに締め上げられたランドルが苦痛にあえぐ。
「黙るのはお前だ、ランドル。セシリア、心配しなくていい。明日、仕事は休みだ。それに、こうなった以上は一日でも早く兄上に報告した方がいい──リチャード」
はい。リチャードが頭をたれる。
「わたしが戻るまで、セシリアを見張っていてくれ。この子はすぐに、此処を出ていこうとするから」
図星をつかれたように、セシリアは肩を揺らした。リチャードが「お任せください」と口角をあげる。
「では、行ってくる。セシリア。屋敷に戻ってきたら、きちんと話そう」
そう言い残し、ハロルドとランドルは屋敷を後にした。
247
お気に入りに追加
3,607
あなたにおすすめの小説
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。
香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。
疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。
そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
「……あなた誰?」自殺を図った妻が目覚めた時、彼女は夫である僕を見てそう言った
Kouei
恋愛
大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った妻。
侍女の発見が早かったため一命を取り留めたが、
4日間意識不明の状態が続いた。
5日目に意識を取り戻し、安心したのもつかの間。
「……あなた誰?」
目覚めた妻は僕と過ごした三年間の記憶を全て忘れていた。
僕との事だけを……
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
あなたの仰ってる事は全くわかりません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。
しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。
だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。
全三話
婚約者は幼馴染みを選ぶようです。
香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。
結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。
ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。
空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。
ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。
ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる