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 ──時は、少しさかのぼる。

 屋敷を出て、馬車に揺られているあいだに頭が冷えてきたランドルは、少し後悔していた。

(シンディーの妊娠で動揺している僕を追い詰めるようなことを言ってきたセシリアが悪いが……離縁を言い渡したのは早まったかな。しかし、探偵まで雇うのは酷すぎだろう)

 いまランドルが乗っている馬車の馭者役をしている男にそれとなく聞いてみたが、シンディーが妊娠したことは知らないようだった。それを素直に信じたランドルの中では、セシリアが探偵を雇って自分を監視していたことは、決定事項となっていた。

「くそっ。アルマを辞めさせて、セシリアに家のことを全て任せようと思っていたのに……っ」

 ランドルが舌打ちする。アルマに支払っていた給料分を、シンディーに渡す算段だった。これでは計画が台無しだ。それに。

「……父上と母上は、セシリアのことを気に入っていたようだから、どう言われるか」

 正当な理由があって離縁するわけだが、それでも良い印象は持たれないだろう。

(もしや父上と母上に、シンディーとのことを話す──わけないか。もし話していたとしても、否定すればいい。父上たちが僕を信じないはずないからな)

 それでも、と迷う。あれだけ従順で、何一つ文句も言わない貴族の娘が他にいるだろうか、と。舞踏会で声をかけたのも、大人しくて、従順そうだと思ったからだ。結果、予想は大当たりだった。さらに親に愛されずに育ったというセシリアは、愛しているという言葉一つで、嬉しそうに何でも言うことを聞いてくれた。

 愛しているのはシンディーだが、セシリアのことも、決して嫌っているわけではない。むしろ、いろんな意味で好いている。

「……仕方ないな」

 ランドルは笑い、馭者の男に、屋敷に戻るようにと声をかけた。どうせ今ごろ、行く当てもないセシリアは屋敷で泣いていることだろう。そしたら、優しく声をかけてあげればいい。離縁もなしだと言えば、さぞや喜ぶだろう。その流れでアルマを辞めさせることを告げてみよう。アルマとは仲良くしていたみたいだが、これならすんなり承知してくれるはずだ。

(何だ。結局は、上手くいっているじゃないか)

 ランドルはにやりと、口角をあげた。

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