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 セシリアは一人、広場にあるベンチに座っていた。実家に帰るというのは、嘘だった。帰る気など、毛頭ない。そもそも帰ったところで、きっと屋敷に入れてもらえないだろう。

(アルマのおかげで家事も一通り出来るようになったし、何処かでメイドとして雇ってもらえないかしら)

 ぼんやり考えていると、ぽつぽつと小雨が降りだしてきた。傘など持ってきていないセシリアが、天を仰ぐ。秋の夕暮れ。冷ややかな風が吹き、身体を冷やす。それでもセシリアは、その場から動こうとはしなかった。

「──セシリア?」

 名を呼ばれ、セシリアが正面に目線を移した。少し離れたそこに立っていたのは、ハロルド──ランドルの父親の、二つ下の弟。つまりは、ランドルの叔父にあたる人だった。

「……ハロルド様?」

 ハロルドの背後には、馬車が止まっている。わざわざ馬車から降りてきてくれたのだろうか。頭の隅でそんなことを考えていると、ハロルドが慌てたように近付いてきた。

「こんな雨の中、護衛もつけずに一人で何を──そのカバンは?」

 セシリアが座る足元に目を向けたハロルドが、首をひねる。セシリアはどう誤魔化したものかと必死に考えを巡らせたが、離縁することはいずれ伝わるだろうと思い、口火を切った。

「……えと、ランドル様に離縁されてしまったので、実家に帰るところです」  

「──え? ど、どうして?」

 セシリアは「……結婚してから三年間、子を産むことが出来なかったから、です」とうつむきながら呟いた。

(……情けないな。きっと、それなら仕方ないって嗤われるんだろうな)

 けれど。

「──何だ、それは」

 明らかに怒気をはらんだ声音に、セシリアは顔をあげた。見ると、ハロルドの顔色は怒りのためか、少し赤らんでいた。

「それであいつは、きみに護衛もつけずに屋敷を追い出したのか?!」

「あ、あの。でも、法でも決められていることですし……」

「……そんなっ。きみたちは、愛し合って結婚したのではなかったのか?」

 セシリアの肩がぴくりと震えた。愛していた。少なくとも、セシリアは。でも、ランドルはきっと、愛してくれてなどいなかった。

(……馬鹿みたいだわ。そんなこと、とっくにわかっていたはずなのに)

 嘘でも肯定など出来るはずもなく。セシリアが沈黙する。ハロルドは何かを察したように腰を屈め、話題を変えた。
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