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「……奥様」
自室で荷物の整理をするセシリアを、アルマが怒っているような、哀しんでいるような、複雑な顔をしながら見詰めている。
「そんな顔、しないでください。ランドル様のおっしゃったことは、間違いではないのですから」
「……可笑しいではないですか! ご自分は不貞行為をしておきながら謝罪もせず、奥様を屋敷から追い出すなんて! しかも、相手を妊娠させていたんですよ!?」
アルマが叫ぶ。対し、セシリアは笑っていた。
「奥様! 笑っている場合じゃないです! 今すぐに旦那様のご両親に報告すべきです!!」
「ごめんなさい。アルマがわたしの言いたいこと、全部言ってくれるものだから、つい……それと、お義父様とお義母様には、何も言うつもりはないです。結婚してから三年間、わたしが子を産めなかったのは、事実ですし」
「それとこれとは話しが別です!」
「かもしれませんが、もう良いのです。あの様子では、とてもランドル様がそれを認めるとは思えませんし……きっとお義父様たちは、血の繋がりのないわたしより、息子であるランドル様の言うことを信じるでしょう? あの方たちは、わたしの両親とは違って、ちゃんとランドル様を愛していますから」
「……っ。それは」
「むしろ、踏ん切りがつきました。ランドル様がシンディーより、わたしを愛することはない。最初からわかっていたことなのに、わたしはありもしない可能性にずっとしがみついていた。でも、それも終わり──ようやく、終わりにすることができる」
「……奥様」
「それにね。ランドル様の不貞行為を言わないのは、ランドル様のためじゃなくて、自分のためです。あの方を怒らせれば、何をされるかわからない。そんな恐怖を感じたから」
食堂での出来事を全て聞いていたアルマは、それ以上、何も言えなかった。
「……ここを出て、何処に行かれるのですか?」
「実家に帰ろうかと」
「でも、ご実家は……」
「厄介者扱いされるでしょうけど、他に行く当てもないし、仕方がないです。それよりも、ごめんなさいね。わたしがいなくなれば、アルマの仕事の負担がますます増えてしまいますよね……」
「何をおっしゃっているのですか。屋敷の主がクズで、給料も安いこんなところ、すぐに辞めるに決まっているでしょう。私は、奥様がいたからここにいたんです」
「アルマ……でも、いいの? 次に働くところは決まっているのですか?」
「決まっていません。でも、こんなところもう少しだっていたくありませんので。とりあえず、私も一旦、実家に帰ろうと思います。奥様もご一緒にどうですか?」
「え……?」
それは、願ってもない申し出ではあった。でも、アルマの家は決して裕福ではない。そのことを知っていたセシリアは、その申し出を断った。はじめて出来た友のような存在のこの人の負担にだけは、絶対になりたくなかったから。
「ありがとうございます。でも、私なら大丈夫ですよ」
「……本当ですか?」
「本当ですよ」
アルマは、少し待ってください、と言い、紙に何やら走り書きしはじめたかと思うと、その紙をセシリアに渡した。
「これ、私の実家の地図です。何かあれば、すぐに訪ねて来てください。両親にも、きちんと言っておきますので」
セシリアは両手で、宝物のようにその紙を握りしめた。
「ありがとうございます、アルマ。どうか、元気で」
自室で荷物の整理をするセシリアを、アルマが怒っているような、哀しんでいるような、複雑な顔をしながら見詰めている。
「そんな顔、しないでください。ランドル様のおっしゃったことは、間違いではないのですから」
「……可笑しいではないですか! ご自分は不貞行為をしておきながら謝罪もせず、奥様を屋敷から追い出すなんて! しかも、相手を妊娠させていたんですよ!?」
アルマが叫ぶ。対し、セシリアは笑っていた。
「奥様! 笑っている場合じゃないです! 今すぐに旦那様のご両親に報告すべきです!!」
「ごめんなさい。アルマがわたしの言いたいこと、全部言ってくれるものだから、つい……それと、お義父様とお義母様には、何も言うつもりはないです。結婚してから三年間、わたしが子を産めなかったのは、事実ですし」
「それとこれとは話しが別です!」
「かもしれませんが、もう良いのです。あの様子では、とてもランドル様がそれを認めるとは思えませんし……きっとお義父様たちは、血の繋がりのないわたしより、息子であるランドル様の言うことを信じるでしょう? あの方たちは、わたしの両親とは違って、ちゃんとランドル様を愛していますから」
「……っ。それは」
「むしろ、踏ん切りがつきました。ランドル様がシンディーより、わたしを愛することはない。最初からわかっていたことなのに、わたしはありもしない可能性にずっとしがみついていた。でも、それも終わり──ようやく、終わりにすることができる」
「……奥様」
「それにね。ランドル様の不貞行為を言わないのは、ランドル様のためじゃなくて、自分のためです。あの方を怒らせれば、何をされるかわからない。そんな恐怖を感じたから」
食堂での出来事を全て聞いていたアルマは、それ以上、何も言えなかった。
「……ここを出て、何処に行かれるのですか?」
「実家に帰ろうかと」
「でも、ご実家は……」
「厄介者扱いされるでしょうけど、他に行く当てもないし、仕方がないです。それよりも、ごめんなさいね。わたしがいなくなれば、アルマの仕事の負担がますます増えてしまいますよね……」
「何をおっしゃっているのですか。屋敷の主がクズで、給料も安いこんなところ、すぐに辞めるに決まっているでしょう。私は、奥様がいたからここにいたんです」
「アルマ……でも、いいの? 次に働くところは決まっているのですか?」
「決まっていません。でも、こんなところもう少しだっていたくありませんので。とりあえず、私も一旦、実家に帰ろうと思います。奥様もご一緒にどうですか?」
「え……?」
それは、願ってもない申し出ではあった。でも、アルマの家は決して裕福ではない。そのことを知っていたセシリアは、その申し出を断った。はじめて出来た友のような存在のこの人の負担にだけは、絶対になりたくなかったから。
「ありがとうございます。でも、私なら大丈夫ですよ」
「……本当ですか?」
「本当ですよ」
アルマは、少し待ってください、と言い、紙に何やら走り書きしはじめたかと思うと、その紙をセシリアに渡した。
「これ、私の実家の地図です。何かあれば、すぐに訪ねて来てください。両親にも、きちんと言っておきますので」
セシリアは両手で、宝物のようにその紙を握りしめた。
「ありがとうございます、アルマ。どうか、元気で」
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