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「そうだ。誤解がないように、先に言っておくよ。シンディーとは、男女の関係はない。ただ僕は、可哀想なシンディーの助けになりたいだけなんだ」

「そうなの。それだけは信じてね、セシリア。私はあなたたちの恋を邪魔する気なんて、これぽっちもないのよ。ただ、私が自分で働けるようになるまでの間、少しだけ助けてほしいだけなの」

 詰め寄られ、左右の手を二人に握られる。変な話しだとは思った。でも、セシリアは二人の言葉を素直に信じた。

 男女の関係がないのなら。
 少しだけなら。

 冷たいと思われるかもしれないが、シンディーに同情したというよりは、ランドルに嫌われたくないという想いの方が強かった。

「わ、わかりました……」

 呟くと、ランドルとシンディーは同時にほっと胸を撫で下ろした。

「良かった。きみなら絶対に、わかってくれると信じていたよ」

「ランドルの言っていた通り、本当に優しいのね。ありがとう、セシリア」

  
 それからのデートは、いかにお金をかけないか。ランドルはそれに必死だった。

「きみがお弁当を作ってきてくれたおかげで、昼食代をシンディーに渡せるよ」「この小物をきみに贈ったつもりで、シンディーにお金を渡すね」等々。

 ランドルが喜んでくれる反面、セシリアはいつも複雑な気持ちになっていた。かと言って、ろくに会話もしない両親に言えるはずもなく、友人もいないセシリアは、一人で耐えるしかなかった。むろん、ランドルの両親に言えるはずもなく。

 ──けれど。

「いつもありがとう、セシリア。愛しているよ」

 ランドルにそう囁かれ、抱き締められるだけで、全ては帳消しに出来てしまう。我ながら現金だなとは思いつつ、セシリアはそれなりに幸せだった。愛してる。そんな風に言ってくれるのは、ランドルだけだったから。

 でも、シンディーの言っていた少しの期間は、ランドルと結婚してからも続くことになる。

 新婚生活がはじまる、少し前。

「え? 使用人を雇わないのですか……?」

「うん。使用人なんて、贅沢だよ。そう思わない? きみは特に仕事もないのだから、任せるよ」

「で、でもわたし、家事なんてしたことなくて……」

「──ああ、そうか。シンディーは家事も全て自分でこなしているけど、きみはお嬢様だもんね」

 あからさまに比べられたセシリアは「……ごめんなさい」と落ち込んだ。ランドルが、いいさ、と微笑む。

「そうだね。一人ぐらいは、メイドがいてもいいかな。父上と母上が屋敷にくるときは、臨時に使用人を雇えばいいし、これで決まりだね。あとは馭者がいれば」

 本当は、使用人をもっと雇えるだけの財産はあった。父上と母上が屋敷にくるときは──とは、それを不信に思わせないためだろう。厄介払いできた祝いか。ハーン伯爵家に好印象を持たせたかったのか。セシリアが父から持たされた持参金はかなりの額だった。セシリアもそれは理解していたが、何も言わなかった。

(……そうよね。使用人なんて、贅沢よね)

 それは一理あると、セシリアも思った。ただ、使用人を雇わない本当の理由を理解していたセシリアは、少しだけ泣きそうにはなった。

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