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「──え? 妊娠?」
下町にひっそりと佇む古びた家。そこに不釣り合いな身なりのいい男性が、驚愕に顔を強張らせた。この家に一人で住む女性──シンディーは、嬉しそうに口元を綻ばせた。
「そうなの。もう、間違いないわ。ほら、お腹も膨らんできたのよ。わかる?」
シンディーが「ふふ。嬉しい。愛するあなたの子を産めるなんて」と、自身のお腹を撫でた。対し、目の前に立つランドルは、目眩がしそうだった。
「……シンディー。ちょっと、待ってくれないか。僕は」
「ランドル。安心して。この子は、私が一人で立派に育ててみせるから」
「……え?」
「あなたに迷惑はかけない。毎月くれるお金の額も、今まで通りでいい。増やして、なんて言うつもりもない。あなたの子だって、誰にも言うつもりもないの。だからお願い。今だけは、私と一緒に喜んで……?」
瞳を潤ませるシンディーを、ランドルはたまらず抱き締めた。
「君は何て健気なんだ。わかったよ。誰に言えずとも、世界で一番愛する君との子だ。その子のためなら、僕は何でもするよ。お金のことなら、心配しなくていい。子どもが産まれれば、何かと入り用だろう」
「そんな。今でも充分過ぎるほどの額を貰っているのに……大丈夫よ。私、頑張って働くから!」
「それこそ駄目だ。君は、昔から身体が弱いんだから」
「……ランドル」
二人が見詰め合い、口付けをする。
家の外。玄関扉の前には、ランドルに雇われている馭者の男が立っていた。聞こうとしなくても聞こえてきてしまった二人の会話を耳にした男は、月明かりの眩しい夜空を見上げた。
(とうとう妊娠してしまったか。まあ、いつかはこうなるだろうとは思っていたが……お金の援助も増やすとか言っていたし、さすがに奥様が気の毒になってきたあ)
ぼんやり考えながらも同時に、今更か、とも男は思った。
下町にひっそりと佇む古びた家。そこに不釣り合いな身なりのいい男性が、驚愕に顔を強張らせた。この家に一人で住む女性──シンディーは、嬉しそうに口元を綻ばせた。
「そうなの。もう、間違いないわ。ほら、お腹も膨らんできたのよ。わかる?」
シンディーが「ふふ。嬉しい。愛するあなたの子を産めるなんて」と、自身のお腹を撫でた。対し、目の前に立つランドルは、目眩がしそうだった。
「……シンディー。ちょっと、待ってくれないか。僕は」
「ランドル。安心して。この子は、私が一人で立派に育ててみせるから」
「……え?」
「あなたに迷惑はかけない。毎月くれるお金の額も、今まで通りでいい。増やして、なんて言うつもりもない。あなたの子だって、誰にも言うつもりもないの。だからお願い。今だけは、私と一緒に喜んで……?」
瞳を潤ませるシンディーを、ランドルはたまらず抱き締めた。
「君は何て健気なんだ。わかったよ。誰に言えずとも、世界で一番愛する君との子だ。その子のためなら、僕は何でもするよ。お金のことなら、心配しなくていい。子どもが産まれれば、何かと入り用だろう」
「そんな。今でも充分過ぎるほどの額を貰っているのに……大丈夫よ。私、頑張って働くから!」
「それこそ駄目だ。君は、昔から身体が弱いんだから」
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家の外。玄関扉の前には、ランドルに雇われている馭者の男が立っていた。聞こうとしなくても聞こえてきてしまった二人の会話を耳にした男は、月明かりの眩しい夜空を見上げた。
(とうとう妊娠してしまったか。まあ、いつかはこうなるだろうとは思っていたが……お金の援助も増やすとか言っていたし、さすがに奥様が気の毒になってきたあ)
ぼんやり考えながらも同時に、今更か、とも男は思った。
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