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「お、お前……このぼくになんてこと──ぐふっ」

「このぼく? そんな台詞が吐けるほど、お前はいつから偉くなったんだ?」

 ベイジルの顎を掴み、ぎりぎりと力を込め、眼光を光らせたのはロペス伯爵だった。

 ロペス伯爵はベイジルとは違い、根っからの紳士だ。浮気など、断じてありえない。そんな性格のロペス伯爵だからこそ、クラリッサから届いた手紙の内容と探偵の調査報告書の写しに、これ以上ないほど憤慨した。ただし手紙には、ベイジルが不貞行為をしたことしか記されておらず、その他の、クラリッサがこれまで人知れず耐えてきたことは、モンテス伯爵の屋敷で、モンテス伯爵夫妻と共に聞かされた。

 ベイジルが不貞行為をしたこと。このことについて、正直に言えば、なにかの間違いではないかという思いも、ロペス伯爵の頭の片隅にはあった。あのベイジルが、と。

 けれど事実は、もっと酷かった。

「お前は言っていたな。クラリッサはお前に心底惚れていると。少々困るぐらいだと。なあ、ベイジルよ。先ほど、クラリッサはお前のこと、なんと言っていた? 答えてみろ」

「……あ、あれは、ぼくの浮気に傷付いて心にもないことを……ひっ」

 ロペス伯爵は、ありのままを答えろと、ベイジルの顎から首に手の位置を変え、軽く締め上げた。

「あ、愛してない、と……」

「誰を」

「……ぼく、を」

「クラリッサは何度もそう告げていたそうだが、お前はなぜ、嘘をついた?」

「……照れているだけ、だと」

「本気で嫌がっていることに、どうして気付けなかった。そこがもう、おかしいのだ」

 ロペス伯爵は、そっとベイジルの首から手を離し、憐れみの眼差しを向けた。

「……お前は、自分の都合のいいように解釈することしかできない病気だ」

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