18 / 24
18
しおりを挟む
「お、お前……このぼくになんてこと──ぐふっ」
「このぼく? そんな台詞が吐けるほど、お前はいつから偉くなったんだ?」
ベイジルの顎を掴み、ぎりぎりと力を込め、眼光を光らせたのはロペス伯爵だった。
ロペス伯爵はベイジルとは違い、根っからの紳士だ。浮気など、断じてありえない。そんな性格のロペス伯爵だからこそ、クラリッサから届いた手紙の内容と探偵の調査報告書の写しに、これ以上ないほど憤慨した。ただし手紙には、ベイジルが不貞行為をしたことしか記されておらず、その他の、クラリッサがこれまで人知れず耐えてきたことは、モンテス伯爵の屋敷で、モンテス伯爵夫妻と共に聞かされた。
ベイジルが不貞行為をしたこと。このことについて、正直に言えば、なにかの間違いではないかという思いも、ロペス伯爵の頭の片隅にはあった。あのベイジルが、と。
けれど事実は、もっと酷かった。
「お前は言っていたな。クラリッサはお前に心底惚れていると。少々困るぐらいだと。なあ、ベイジルよ。先ほど、クラリッサはお前のこと、なんと言っていた? 答えてみろ」
「……あ、あれは、ぼくの浮気に傷付いて心にもないことを……ひっ」
ロペス伯爵は、ありのままを答えろと、ベイジルの顎から首に手の位置を変え、軽く締め上げた。
「あ、愛してない、と……」
「誰を」
「……ぼく、を」
「クラリッサは何度もそう告げていたそうだが、お前はなぜ、嘘をついた?」
「……照れているだけ、だと」
「本気で嫌がっていることに、どうして気付けなかった。そこがもう、おかしいのだ」
ロペス伯爵は、そっとベイジルの首から手を離し、憐れみの眼差しを向けた。
「……お前は、自分の都合のいいように解釈することしかできない病気だ」
「このぼく? そんな台詞が吐けるほど、お前はいつから偉くなったんだ?」
ベイジルの顎を掴み、ぎりぎりと力を込め、眼光を光らせたのはロペス伯爵だった。
ロペス伯爵はベイジルとは違い、根っからの紳士だ。浮気など、断じてありえない。そんな性格のロペス伯爵だからこそ、クラリッサから届いた手紙の内容と探偵の調査報告書の写しに、これ以上ないほど憤慨した。ただし手紙には、ベイジルが不貞行為をしたことしか記されておらず、その他の、クラリッサがこれまで人知れず耐えてきたことは、モンテス伯爵の屋敷で、モンテス伯爵夫妻と共に聞かされた。
ベイジルが不貞行為をしたこと。このことについて、正直に言えば、なにかの間違いではないかという思いも、ロペス伯爵の頭の片隅にはあった。あのベイジルが、と。
けれど事実は、もっと酷かった。
「お前は言っていたな。クラリッサはお前に心底惚れていると。少々困るぐらいだと。なあ、ベイジルよ。先ほど、クラリッサはお前のこと、なんと言っていた? 答えてみろ」
「……あ、あれは、ぼくの浮気に傷付いて心にもないことを……ひっ」
ロペス伯爵は、ありのままを答えろと、ベイジルの顎から首に手の位置を変え、軽く締め上げた。
「あ、愛してない、と……」
「誰を」
「……ぼく、を」
「クラリッサは何度もそう告げていたそうだが、お前はなぜ、嘘をついた?」
「……照れているだけ、だと」
「本気で嫌がっていることに、どうして気付けなかった。そこがもう、おかしいのだ」
ロペス伯爵は、そっとベイジルの首から手を離し、憐れみの眼差しを向けた。
「……お前は、自分の都合のいいように解釈することしかできない病気だ」
3,218
お気に入りに追加
2,910
あなたにおすすめの小説
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました
コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた
東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」
その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。
「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」
リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。
宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。
「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」
まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。
その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。
まただ……。
リシェンヌは絶望の中で思う。
彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。
※全八話 一週間ほどで完結します。
【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ
さこの
恋愛
私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。
そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。
二十話ほどのお話です。
ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/08/08
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
冤罪をかけて申し訳ないって……謝罪で済む問題だと思ってます?
水垣するめ
恋愛
それは何の変哲もない日だった。
学園に登校した私は、朝一番、教室で待ち構えていた婚約者であるデイビット・ハミルトン王子に開口一番罵声を浴びせられた。
「シエスタ・フォード! この性悪女め! よくもノコノコと登校してきたな!」
「え……?」
いきなり罵声を浴びせられたシエスタは困惑する。
「な、何をおっしゃっているのですか……? 私が何かしましたか?」
尋常ではない様子のデイビットにシエスタは恐る恐る質問するが、それが逆にデイビットの逆鱗に触れたようで、罵声はより苛烈になった。
「とぼけるなこの犯罪者! お前はイザベルを虐めていただろう!」
デイビットは身に覚えのない冤罪をシエスタへとかける。
「虐め……!? 私はそんなことしていません!」
「ではイザベルを見てもそんなことが言えるか!」
おずおずと前に出てきたイザベルの様子を見て、シエスタはギョッとした。
イザベルには顔に大きなあざがあったからだ。
誰かに殴られたかのような大きな青いあざが目にある。
イザベルはデイビットの側に小走りで駆け寄り、イザベルを指差した。
「この人です! 昨日私を殴ってきたのはこの人です!」
冤罪だった。
しかしシエスタの訴えは聞き届けてもらえない。
シエスタは理解した。
イザベルに冤罪を着せられたのだと……。
今夜、元婚約者の結婚式をぶち壊しに行きます
結城芙由奈
恋愛
【今夜は元婚約者と友人のめでたい結婚式なので、盛大に祝ってあげましょう】
交際期間5年を経て、半年後にゴールインするはずだった私と彼。それなのに遠距離恋愛になった途端彼は私の友人と浮気をし、友人は妊娠。結果捨てられた私の元へ、図々しくも結婚式の招待状が届けられた。面白い…そんなに私に祝ってもらいたいのなら、盛大に祝ってやろうじゃないの。そして私は結婚式場へと向かった。
※他サイトでも投稿中
※苦手な短編ですがお読みいただけると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる