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 どくん。どくん。
 心臓が早鐘を打ちはじめる。

「……まさか、不貞行為までしたってことはありませんよね……?」

 震える声の真の意味に、ネリーはむろん、気付くことはなく。気の毒そうにしながらも、照れながらごにょごにょと話す。

「それは、まあ……真に愛し合っている者同士、付き合って半年も経つわけですから。婚約者のあなたには、少し悪いとは思いましたけど……でも、ベイジル様がどうしてもって」

 馬鹿正直に答えるネリーに、クラリッサは感謝した。諦めかけていた心が、期待に膨れる。

 ──不貞行為をしたなら、立派な婚約解消の材料になる。

(お父様たちを説得できる。ベイジルと、別れられる……っ)

 瞳に光が宿る。目の前にいる相手が、クラリッサには救世主に見えた。

 クラリッサはネリーに近付くと、目を輝かせながらネリーの手をぎゅっと握った。

「ありがとうございます、ネリーさん。おかけでわたし、目が覚めました」

「! わかってくれたんですね?」

「はい。あなたとベイジルの気持ち、痛いほど伝わってきました。ネリーさん。どうか、ベイジルを幸せにしてあげてください」

「? もちろん。あたしにできることならなんでもするつもりです」

 いいえ。クラリッサが大袈裟に頭を振る。

「ベイジルはあなたと一緒になるべきです。わたしでは、駄目なんです。わたしはベイジルとの婚約を解消しますから、どうか」

「え、ええ?!」

 急に大声を上げたネリーに、クラリッサは目を丸くした。

「どうしたのですか? それがあなたの望みだったのでは?」

「そ、そうですけど……子爵令嬢のあたしが伯爵令嬢と伯爵令息の婚約を解消させたなんて学園や社交界に広まったら」

 ──いまさら?

 もうすでに非常識極まりないことをやっているのに、この令嬢の怖れる基準がいまいちわからない。

 でも。

 申し訳ないが、逃がすわけにはいかなかった。

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