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数日経って、ようやくアシュリーの顔と声が頭から離れそうになったとき、シンディーの口から、アシュリーの近況を聞かされた。
「妻とは無事、離縁できたと手紙がきましたわ」
休日。シンディーのお気に入りのチーズケーキを出す喫茶店でお茶をしていると、シンディーがウキウキとそう報告してきた。
「そ、そうですか。よかったです」
「絶対に別れない、と粘られたそうですが。不貞行為の証拠を突きつけた上で、慰謝料も請求しないという条件で、ようやく大人しくなったそうです」
「……甘いですねえ」
「本当に。でも、倫理観がない人間を追い込むと、どんな恐ろしいことをしてくるか想像できませんから。これでよかったのかと」
真っ先に脳裏を過ったのは元夫で、エミリアはげんなりした。
「……確かに。その通りかもしれません」
「ふふ、渋いお顔。コーヒー、そんなに苦かったですか?」
綺麗に笑うこの人はきっと、気付いているのだろう。でも決して、それには触れてこない。シンディーだって、恐ろしい目に遭った被害者なのに。
「そうそう。アシュリーから、エミリアさんにくれぐれもよろしくと」
「わたしに、ですか。でもわたし、なにもしてない……どころか、とても失礼な物言いをしてしまいまして」
キョトンとするシンディーに、エミリアは迷いながらも、胸の内を打ち明けてみた。
「……アシュリーさんは、一人で頑張って生きて、まわりの人たちから愛されているわたしと話がしてみたかったと言ってくださいました。いまなら、なんの他意もない。そう理解できるのに。そのときのわたしは、なんだか捻くれた受け取り方をしてしまって」
目の前にあるカップを両手で掴み、残り少なくなったコーヒーを意味もなく軽く揺らし、それを眺めながらエミリアが続ける。
「離縁して、誰にも頼らずに一人で生きる。その決意は、わたしにとってかなりの覚悟と勇気がいるものでした。だから、奥様が一人になっても、わたしみたいに生きている女性がいるなら大丈夫だろうなんて、軽く考えてほしくないな、なんて……」
苦笑するエミリアに、シンディーは「アシュリーも、後悔していましたよ」と、静かに告げた。
「妻とまるで正反対のエミリアさんが眩しくて、健気で。つい甘えて、無神経なことをたくさん言ってしまったと。明日、エミリアさんがわたくしのお屋敷に来ますよと教えたら、動揺していました。あんなアシュリー、久しぶりに見ましたわ」
うふふ。
花が飛ぶ勢いで可愛らしく笑うシンディーに、エミリアは目を丸くした。
「……動揺? そんな感じ、ちっとも」
「あの子は昔から、なんでもない風を装うのが上手い子でしたから」
一呼吸置いて。エミリアが心から安堵したように、小さく息を吐いた。その様子を、シンディーが柔らかい眼差しで見詰める。
「わたし、嫌われてなかったんですね。よかった。それならまた、マリアンちゃんと一緒にお店に来てくれるでしょうか」
「ええ、きっと。マリアンがあなたにもう一度会いたいと、アシュリーを困らせているそうですから」
「それは滅茶苦茶嬉しいです……っ」
なぜか頬を赤く染めるエミリアをじっと見ながら、シンディーは自身の口元を手で覆い、隠した。
その口角は、緩く上がっていた。
「妻とは無事、離縁できたと手紙がきましたわ」
休日。シンディーのお気に入りのチーズケーキを出す喫茶店でお茶をしていると、シンディーがウキウキとそう報告してきた。
「そ、そうですか。よかったです」
「絶対に別れない、と粘られたそうですが。不貞行為の証拠を突きつけた上で、慰謝料も請求しないという条件で、ようやく大人しくなったそうです」
「……甘いですねえ」
「本当に。でも、倫理観がない人間を追い込むと、どんな恐ろしいことをしてくるか想像できませんから。これでよかったのかと」
真っ先に脳裏を過ったのは元夫で、エミリアはげんなりした。
「……確かに。その通りかもしれません」
「ふふ、渋いお顔。コーヒー、そんなに苦かったですか?」
綺麗に笑うこの人はきっと、気付いているのだろう。でも決して、それには触れてこない。シンディーだって、恐ろしい目に遭った被害者なのに。
「そうそう。アシュリーから、エミリアさんにくれぐれもよろしくと」
「わたしに、ですか。でもわたし、なにもしてない……どころか、とても失礼な物言いをしてしまいまして」
キョトンとするシンディーに、エミリアは迷いながらも、胸の内を打ち明けてみた。
「……アシュリーさんは、一人で頑張って生きて、まわりの人たちから愛されているわたしと話がしてみたかったと言ってくださいました。いまなら、なんの他意もない。そう理解できるのに。そのときのわたしは、なんだか捻くれた受け取り方をしてしまって」
目の前にあるカップを両手で掴み、残り少なくなったコーヒーを意味もなく軽く揺らし、それを眺めながらエミリアが続ける。
「離縁して、誰にも頼らずに一人で生きる。その決意は、わたしにとってかなりの覚悟と勇気がいるものでした。だから、奥様が一人になっても、わたしみたいに生きている女性がいるなら大丈夫だろうなんて、軽く考えてほしくないな、なんて……」
苦笑するエミリアに、シンディーは「アシュリーも、後悔していましたよ」と、静かに告げた。
「妻とまるで正反対のエミリアさんが眩しくて、健気で。つい甘えて、無神経なことをたくさん言ってしまったと。明日、エミリアさんがわたくしのお屋敷に来ますよと教えたら、動揺していました。あんなアシュリー、久しぶりに見ましたわ」
うふふ。
花が飛ぶ勢いで可愛らしく笑うシンディーに、エミリアは目を丸くした。
「……動揺? そんな感じ、ちっとも」
「あの子は昔から、なんでもない風を装うのが上手い子でしたから」
一呼吸置いて。エミリアが心から安堵したように、小さく息を吐いた。その様子を、シンディーが柔らかい眼差しで見詰める。
「わたし、嫌われてなかったんですね。よかった。それならまた、マリアンちゃんと一緒にお店に来てくれるでしょうか」
「ええ、きっと。マリアンがあなたにもう一度会いたいと、アシュリーを困らせているそうですから」
「それは滅茶苦茶嬉しいです……っ」
なぜか頬を赤く染めるエミリアをじっと見ながら、シンディーは自身の口元を手で覆い、隠した。
その口角は、緩く上がっていた。
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