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「──なんて。姉上に相談も兼ねて愚痴りにきたら、さっさと決断しなさいと屋敷を追い出されてしまったというわけです」

「……なるほど。でも、ご実家があるのなら、野垂れ死ぬなんてことはないのでは? それとも、もう亡くなられているとか?」

「妻の両親は健在ですが。本人いわく、不倫して離縁されたなんて知られたら、絶縁されるとのことらしいです。確かに厳格な家ですから、その可能性は大いにあるでしょうね」

「……なんというか。すべて奥様の自業自得なので、野垂れ死のうがどうなろうが、よくないですか?」

 アシュリーは、はは、と笑った。

「姉上と同じことを言うのですね」

「なにか別の答えを求めていらしたら、ご期待に添えず申し訳ありません」

「いいえ。相談は建前で、本音は単に、あなたと話がしてみたかっただけかもしれません」

 目を丸くするエミリアとアシュリーの視線が交差する。

「一人で頑張って生きて、まわりの人たちから愛されているきみと、話がしてみたかった。付き合ってくれて、ありがとうございました」

 エミリアの片眉が、ぴくりと動いた。

「──離縁されても、一人で生きている女性がいたよって奥様に教えてあげるためですか?」

 ざわり。心がなぜか、嫌な感じで蠢いた。

「わたしはただ、あの生活から逃げ出したかった。だからなり振り構わず必死になれた。それだけです。こんなわたしなんかと比べたら、奥様が気の毒ですよ」

 ──知らないから。

(わたしは、わたしに魅力がなかったせいで、離縁したんです)

 なんて、言えるわけない。自分に非があって離縁したわけではないことが、なんだか急に、惨めに思えた。

 俯き、沈黙するエミリアに、アシュリーは「……わたしなんか、って。それは口癖?」と、静かに問いかけてきた。でも、答えは求めていなかったようで。

「不快にさせてしまったのなら、謝罪します。妻と向き合うのが苦痛で、疲れてしまって……そんなときに、一生懸命に生きるあなたと、どうしてか話がしてみたいと思ってしまった。決して、あなたが言うような意図からではありません。それだけはどうか、信じてください」

 真剣な声色に、エミリアは完全な八つ当たりだったとはっとした。慌てて立ち上がり、頭を下げる。

「すみません。わたし、憶測で失礼なことばかり言ってしまって……」

「こちらこそ。いくら姉上の知り合いでも、わたしとは初対面だったのに、あまりに馴れ馴れしかったですよね。どうかしてました。自分が考えるより、精神的に参っていたのかもしれません」

「……ああ。話が通じない人との会話は、精神的にきますから」

「実感がこもっていますねえ」

「わたしも、いろいろありましたので」

 そうですか。
 アシュリーは優しく微笑みながら立ち上がると「お時間をとらせてしまい、すみませんでした」と軽く頭を下げ、その場を後にしていった。

 背中が見えなくなるまでなんとなく見送っていると、まだ串に残っていた肉が、冷めてしまっていた。

 ベンチに座り、肉を食べる。アシュリーとの会話を改めて振り返ってみると、生意気だったり、失礼なことばかり言っていた気がする。

「……もう二度と、話しかけてはもらえないだろうな」

 少しの寂しさを感じたが、これも自業自得かと、自嘲気味に一つ、笑った。



 ──が。

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