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 翌朝。

 バートがローナたちと住みはじめたアパートから、王宮へと向かう街路で、レイラはバートを待ち伏せした。

 出勤途中。その姿を視界に入れたバートは「思ったより、早かったね」と、機嫌良く手を差し出した。

「離縁届を持ってきたんだろう? もっと泣き喚いて、駄々をこねるかと思っていたけど、予想より大人で助かったよ」

「──持ってきてないわ。まだサインもしていない」

 バートは、大きくため息をついた。

「やっぱりか。本当にきみは、甘やかされて育ってきた、どうしようもない箱入り娘だ。でも、わがままは家族に聞いてもらって。ぼくはもう、うんざりだから」

 嫌味たらしい台詞にも、レイラはもう、動じなかった。ここに来たのは、違う目的があったから。

「──マックスに謝罪してほしいの」

 レイラの真剣な眼差しに、バートは「はあ?」と、眉をひそめた。

「ふざけてる?」

「大真面目よ」

「ぼくはね。愛してもいないきみの子どもを、何十年も育ててきてあげたんだ。感謝されこそすれ、謝罪する義務なんてない」

「……わたしと同様、マックスのことも愛していなかったの?」

 なにをわかりきったことをという風に、バートは肩を竦めた。

「きみがそこまで愚かだとは思わなかった。心底、がっかりだよ。逆に、きみはぼくに、心から謝罪すべきだというのに」

 レイラは、そう、と目を伏せた。

「あなたの気持ち、よくわかったわ」

 踵を返すレイラを、おい、とバートが呼び止める。

「離縁届にサインして、早く持ってこい。家もくまなく掃除して、ぼくたちに明け渡すんだ。そう長くは待ってやらないからな!」

 声を荒げるバートに、レイラは振り返ることはしなかった。

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