聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ

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「ほ、報告します! 王都に、五匹の魔物が侵入してきました!!」

 兵士が膝をつき、早口で叫んだ。国王たちが慌てふためく。ついにここまできてしまったかと。中には、小さく悲鳴をあげる者もいた。

「──ベリンダ!」

 国王が頭を垂れたままのベリンダの名を怒りのまま呼んだ。ベリンダは、びくっと身体を震えさせた。

「い、今すぐに教会へと戻り、祈りを捧げてまいります……っ」

「いや。教会ではなく、お前は魔物のところに行ってこい!」

 ベリンダは「……え?」と目を丸くした。

「魔物と対峙し、お前が確かに聖女であることを証明してこい!!」

 重臣たちが「おお、それは名案ですな!」と賛同しはじめる。ベリンダは青い顔をしながら、国王の隣に立つショーンに、助けを求めるように目を向けた。

「ショ、ショーン殿下……」

 だが、ショーンの返答は期待していたものとは程遠いものだった。

「ぼくはお前が特別な存在だからこそ、婚約してやったんだ。もしそれが偽りだったのなら──容赦しないからな」

「そ、そんな……わたくしのこと、あんなに愛しているとおっしゃっていたくせに……」

 ベリンダの動揺など構うことなく、国王は兵士に命じた。

「この女を魔物のところに連れていけ。いいか。例えこいつがどうなろうが、決して手出しはせず、観察していろ。こいつが真の聖女かどうか、見極めてこい!」

「──はっ」

 命じられた兵士が、ベリンダの腕を掴み、立たせようとする。ベリンダは必死に抵抗するが、兵士の力にかなうわけもなく。

「……け、結界なんてこの世にあるわけないじゃないですか!!」

 ずるずると扉に連れて行かれる途中で、ベリンダは叫きはじめた。

「可視化? 何ですかそれ。ここにいる誰も、見たことないでしょう? どうして目に見えないものを信じられるのですか?」

 謁見の間にいる誰もが、怒りと呆れを覚えた。この女は、認めたのだ。自分には、結界を可視化することはできないと。つまりは、嘘をついていたのだと。

 魔物が減少していた。だから本当に魔物に対して結界がはれるのか確認できなかった。貴族の聖女が早く現れてほしかったから、きちんと精査しなかった。そんな理由から、この女の言葉だけを信じ、この女を聖女としてしまった。結果、国が危険にさらされることになってしまった。

「……現に、聖女と呼ばれる存在が現れてからの我が国は、魔物に襲われることがほとんどなくなったが、それはどう説明するつもりだ?」

 国王が痛む頭を抱えながら問いかけると、ベリンダは「知りませんよ、そんなこと! たまたま運が良かっただけでしょう?!」と泣き叫んだ。


 ──数時間後。

 ベリンダが魔物に殺されたとの報告が、国王の元に届いた。

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