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「どれも外れではないかな」

 アーリンが「……やっぱり、そうですか」とうつ向く。ルーファスは、静かに続けた。

「はじめてきみを見たとき、きみの瞳には光が宿ってなかった。まわりの反応からも、きみが大切にされていないことは、すぐに察しがついたよ」

「……だからわたしを憐れんでくれたのですね」

 ルーファスは苦笑した。

「可哀想な子だな、とは思ったよ。それからきみと旅路を一緒にするうちに、風景を見たり、食事をするとき、驚く顔や笑う顔が少しずつ見れて……それが何だか嬉しくて。かと思えば、いきなり魔物の前に立ちはだかったり」

 ルーファスは小さく笑うと、アーリンと目線を合わせた。

「危なっかしくて、目をはなせないなあって思った。王都に着いてからは、そんな危険はさほどないはずなのに、きみが気になって仕方なくて──もちろん、ブリアナのことは頭にあったけど。わたしにはアーリンをこの国に連れてきた責任があるからと、自分を誤魔化して……」

 向けられる真っ直ぐな双眸に、アーリンは目をはなせない。どくん、どくんと。心臓が鼓動を早めていくのを感じる。

「けれど、違うんだ。もう誤魔化す必要はない。だからわたしは、はっきり言うよ。わたしはきみに逢いたいから、逢いにいっていたんだ。きみが聖女だから、可哀想だから。きっと、それ以外の大きな理由で──アーリン?」

 アーリンはルーファスの首に腕をまわした。ルーファスの肩に顔を埋め、力の入らない腕で、ぎゅっと抱き締める。

「……わたしは、とても怖い目に遭いました」

 ぽつりとアーリンが呟いた。ルーファスは「──うん。ごめんね」と、アーリンを優しく抱き締めた。アーリンの瞳が、涙でにじむ。

「……どのようなかたちであれ、わたしに好意を持ってくれているのなら、もう少しだけ、このままでいさせてください……わたしはもう、それだけで充分です……」

「それは、きみもわたしに好意を抱いていると解釈してもいいってことかな」

 アーリンは、ふふ、と力なく笑った。

「聞かずとも、わかっているでしょう……?」

「そう? それではアーリンも、わたしがきみを愛していると口に出す前から、言わずとも知っていたの?」

 アーリンは「ああ、やはりわたしはいま、夢を見ている最中なのですね」と、泣き笑いを浮かべた。

「わたしはいま、見知らぬ男たちに陵辱されているところなのですね……だからきっと、心が壊れぬように、こんなあり得ない幸せな夢を……」

 アーリンはしくしくと泣きはじめた。出逢ってからしばらく経つが、アーリンが泣くところを、ルーファスははじめて見た気がした。ルーファスがあやすように、アーリンの背を優しくさする。

「夢じゃないよ。大丈夫。わたしが保証するから」

「……嘘です」

「困ったな。どうしたら信じてくれる?」

 アーリンは「……愛していると言ってください」と、鼻をすすった。ルーファスが、いいよ、と笑う。

「愛しているよ、アーリン」

「……もう一度、言ってください」


 ルーファスは「何度でも」と答えながら、アーリンを強く抱き締めた。
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