16 / 31
16
しおりを挟む
バンッ!!
何の前触れもなく、勢いよく扉が開いた。部屋にいる全員が、そちらに目を向けた。そこに立っていたのは、一人の兵士だった。
「…………何でここに兵士が?」
男の一人がぽかんと首を傾げた。ここは王都内ではあるが、町外れにある廃墟の地下室。男たちの溜まり場となっている場所だ。普段、貴族はおろか、近くの住民ですら誰も近寄ったりはしない。
まして廃墟の入り口には、仲間二人が見張り役として立っていたはず。兵士の一人ぐらい、殺せそうなもの。なのに。
男たちは思考を巡らしながらも、兵士にナイフを向ける。兵士は剣を抜き、地を蹴った。続けて、二人の兵士が突入してきた。あっという間に男たちは地に伏せられ、手枷をつけられた。
誰もが呆然とするなか、兵士の一人が扉に向かって声をかけた。
「──ルーファス殿下。やはり、あの者の話は本当だったようです」
?!
声に応じるように、扉の奥。暗闇から現れたのは、確かにルーファスだった。
「…………」
蝋燭の淡い灯りに照らされたルーファスの表情は、怒りと嫌悪に染められていると同時に、絶望しているようにも見えた。
「……え。どうして、ルーファス様がこのようなところに……?」
誰よりパニックになっていたのは、ブリアナだろう。ルーファスはそんなブリアナを素通りすると、アーリンの近くに膝をついた。唇を噛みしめ「……すまない」と謝罪しながら、アーリンの縄をといた。自身の上着をアーリンにかけ、アーリンの上半身を起こした。
小刻みに震えるアーリン。顔からは、一切の血の気が引いている。無意識なのだろうか。アーリンがルーファスの服を、震える手で掴んだ。ルーファスはそんなアーリンを、無言で抱き締めた。
「──ルーファス様! 婚約者であるわたくしの前であんまりですわ!!」
甲高い声でわめくブリアナ。ルーファスはアーリンを腕の中に抱き締めたまま、ブリアナに鋭い視線を向けた。いつも優しく、穏やかなルーファスにこんな視線を向けられたことがなかったブリアナは、びくっと肩を揺らした。
「ル、ルーファス様。何か誤解をなさっているのではなくて?」
「……誤解?」
「そうです。わたくしは、聖女であるアーリンの誘拐に巻き込まれただけです。この下衆な男たちはわたくしを人質に、アーリンを脅したのですわ。わたくしを傷付けられたくなければ大人しくしていろと。アーリンはそんなわたくしを守ろうと、自ら男たちの慰みものに……」
ペラペラと話すブリアナを遮るように、ルーファスは静かに口を開いた。
「──黙れ。下衆はお前だろう」
何の前触れもなく、勢いよく扉が開いた。部屋にいる全員が、そちらに目を向けた。そこに立っていたのは、一人の兵士だった。
「…………何でここに兵士が?」
男の一人がぽかんと首を傾げた。ここは王都内ではあるが、町外れにある廃墟の地下室。男たちの溜まり場となっている場所だ。普段、貴族はおろか、近くの住民ですら誰も近寄ったりはしない。
まして廃墟の入り口には、仲間二人が見張り役として立っていたはず。兵士の一人ぐらい、殺せそうなもの。なのに。
男たちは思考を巡らしながらも、兵士にナイフを向ける。兵士は剣を抜き、地を蹴った。続けて、二人の兵士が突入してきた。あっという間に男たちは地に伏せられ、手枷をつけられた。
誰もが呆然とするなか、兵士の一人が扉に向かって声をかけた。
「──ルーファス殿下。やはり、あの者の話は本当だったようです」
?!
声に応じるように、扉の奥。暗闇から現れたのは、確かにルーファスだった。
「…………」
蝋燭の淡い灯りに照らされたルーファスの表情は、怒りと嫌悪に染められていると同時に、絶望しているようにも見えた。
「……え。どうして、ルーファス様がこのようなところに……?」
誰よりパニックになっていたのは、ブリアナだろう。ルーファスはそんなブリアナを素通りすると、アーリンの近くに膝をついた。唇を噛みしめ「……すまない」と謝罪しながら、アーリンの縄をといた。自身の上着をアーリンにかけ、アーリンの上半身を起こした。
小刻みに震えるアーリン。顔からは、一切の血の気が引いている。無意識なのだろうか。アーリンがルーファスの服を、震える手で掴んだ。ルーファスはそんなアーリンを、無言で抱き締めた。
「──ルーファス様! 婚約者であるわたくしの前であんまりですわ!!」
甲高い声でわめくブリアナ。ルーファスはアーリンを腕の中に抱き締めたまま、ブリアナに鋭い視線を向けた。いつも優しく、穏やかなルーファスにこんな視線を向けられたことがなかったブリアナは、びくっと肩を揺らした。
「ル、ルーファス様。何か誤解をなさっているのではなくて?」
「……誤解?」
「そうです。わたくしは、聖女であるアーリンの誘拐に巻き込まれただけです。この下衆な男たちはわたくしを人質に、アーリンを脅したのですわ。わたくしを傷付けられたくなければ大人しくしていろと。アーリンはそんなわたくしを守ろうと、自ら男たちの慰みものに……」
ペラペラと話すブリアナを遮るように、ルーファスは静かに口を開いた。
「──黙れ。下衆はお前だろう」
165
お気に入りに追加
4,283
あなたにおすすめの小説
【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
断罪されし真の聖女は滅びを嘆く
あーもんど
恋愛
聖女メイヴィスはある日、第一王子トリスタンのプロポーズを断ったことを理由に断罪されてしまう……。
何の能力も持たないことから偽聖女扱いされ、親代わりだった神官長のハワードも殺されてしまった。
その後、地下牢へと閉じ込められたメイヴィスの元に、全ての元凶であるトリスタン王子が訪ねてきた。
「私のものになるなら、ここから出してやる」
言外に『体を差し出せ』と言われたメイヴィスは、命よりも己の貞操を選んだ。
────聖女は神の花嫁。人間に純潔を奪われるなんて、あってはならない。
トリスタン王子の提案を跳ね除けたメイヴィスは、やがて処刑の日を迎え……火あぶりの刑に処された。
無念の死を迎えたメイヴィスだったが、天界で夫となる神様と出逢って……?
そして、下界での酷い仕打ちを知った神様は大激怒!
────「僕の花嫁に手を出すなんて……本当に人間は愚かだね」
これは聖女の死から始まる破滅と滅亡の物語。
※小説家になろう様でも、公開中
※ざまぁ全振りの話になるので、苦手な方はスルー推奨
※『真の聖女を断罪した国は神の怒りを買ったようです〜神の逆鱗に触れたため、この世界は消滅します〜』のリメイク版になります。
(かなり内容を変えたので、旧版を知っている方でも楽しめると思います。ちなみに旧版はピクシブ様にて、途中まで読めます)
精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果
あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」
ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。
婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。
当然ながら、アリスはそれを拒否。
他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。
『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。
その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。
彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。
『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。
「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」
濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。
······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。
復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。
※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください)
※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。
※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。
※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる