聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ

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 バンッ!!

 何の前触れもなく、勢いよく扉が開いた。部屋にいる全員が、そちらに目を向けた。そこに立っていたのは、一人の兵士だった。

「…………何でここに兵士が?」

 男の一人がぽかんと首を傾げた。ここは王都内ではあるが、町外れにある廃墟の地下室。男たちの溜まり場となっている場所だ。普段、貴族はおろか、近くの住民ですら誰も近寄ったりはしない。

 まして廃墟の入り口には、仲間二人が見張り役として立っていたはず。兵士の一人ぐらい、殺せそうなもの。なのに。

 男たちは思考を巡らしながらも、兵士にナイフを向ける。兵士は剣を抜き、地を蹴った。続けて、二人の兵士が突入してきた。あっという間に男たちは地に伏せられ、手枷をつけられた。

 誰もが呆然とするなか、兵士の一人が扉に向かって声をかけた。


「──ルーファス殿下。やはり、あの者の話は本当だったようです」


 ?!

 声に応じるように、扉の奥。暗闇から現れたのは、確かにルーファスだった。

「…………」

 蝋燭の淡い灯りに照らされたルーファスの表情は、怒りと嫌悪に染められていると同時に、絶望しているようにも見えた。

「……え。どうして、ルーファス様がこのようなところに……?」

 誰よりパニックになっていたのは、ブリアナだろう。ルーファスはそんなブリアナを素通りすると、アーリンの近くに膝をついた。唇を噛みしめ「……すまない」と謝罪しながら、アーリンの縄をといた。自身の上着をアーリンにかけ、アーリンの上半身を起こした。

 小刻みに震えるアーリン。顔からは、一切の血の気が引いている。無意識なのだろうか。アーリンがルーファスの服を、震える手で掴んだ。ルーファスはそんなアーリンを、無言で抱き締めた。

「──ルーファス様! 婚約者であるわたくしの前であんまりですわ!!」

 甲高い声でわめくブリアナ。ルーファスはアーリンを腕の中に抱き締めたまま、ブリアナに鋭い視線を向けた。いつも優しく、穏やかなルーファスにこんな視線を向けられたことがなかったブリアナは、びくっと肩を揺らした。

「ル、ルーファス様。何か誤解をなさっているのではなくて?」

「……誤解?」

「そうです。わたくしは、聖女であるアーリンの誘拐に巻き込まれただけです。この下衆な男たちはわたくしを人質に、アーリンを脅したのですわ。わたくしを傷付けられたくなければ大人しくしていろと。アーリンはそんなわたくしを守ろうと、自ら男たちの慰みものに……」

 ペラペラと話すブリアナを遮るように、ルーファスは静かに口を開いた。


「──黙れ。下衆はお前だろう」

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