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 パーティーがはじまるやいなや、広間にいる女たちは、競うようにルーファスのまわりに集まっていった。

「あの。ルーファス殿下には、恋人はいらっしゃるのですか?」

「はい。つい先日、婚約したばかりです」

 これに落胆する者もいたが、まあそうだろうなと、大半の者はめげなかった。何でもいいからお話したい。その思いで、令嬢たちは嵐のようにルーファスを質問攻めにした。


 ──一方のアーリンは。

 壁際にある椅子に座り、ぼんやりと天井を見上げていた。目の前には見たこともないほどのご馳走が並んでいる。今日ばかりはそれを食したところで咎められはしないだろうが、アーリンはその確信が持てなかったので、やめた。殴られてまで食したいとは思えない。

(……ルーファス殿下、優しそうな人だったな。それでも結界を張ることができなかったら、殺されるのかな)

 そんなことをぼーっとする頭で考える。とはいえ、頭がすっきりしたことなど、覚えている限りは一度もないのだが。


「──やはりどこか、体調が悪いのでは?」


 心配そうな声色にはっとしたアーリンは、顔を正面に向けた。前屈みになり、アーリンの前に立っていたのは、ルーファスだった。慌てて両手を左右にふる。

「い、いえ。平気……です」

 答えながらちらっとまわりを見れば、女たちがじっとこちらを見ていた。それはそれは恨めしそうに。

「やはり国を離れることは、あなたにとって、とても辛いことなのでは?」

 複数の視線に気付いているのか。いないのか。ルーファスは続ける。

「そ、れは……あの、本当に大丈夫です。でも、あの」

「はい。何でしょう」

「わたしなどに、そんな丁寧にお話してくれなくても大丈夫です、から……」

「けれど、あなたは聖女です。それ相応の──」

 もしかしてこの人は、わたしが平民だと知らないのだろうか。アーリンはそんな風に考え、必死に訴えた。

「わたしはただの平民なので……殿下にそんな風にお話されると……その、おそれ多くて」

 ルーファスは、ふむ、と顎に手をあてた。

「平民だからといって、あなたが聖女であることに変わりはないと思うのですが……でも、まあ」

 柔らかくルーファスが微笑む。アーリンの心臓が一つ、大きく跳ねた。


「きみが望むなら、そうするよ。改めてよろしくね、アーリン」

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