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「目立たぬよう、深夜のうちにここを出ます。朝になり、王都の出入口の門が開くころ、出立したいと思います」
そう告げたテレンスは、一時間もしないうちに、ウェバー公爵の屋敷を後にした。
幌馬車の御者台には、テレンスが。荷台には、木箱に入れられたアラーナがいた。暗闇の中、馬車がゆっくりと進む。突然、数人の人影に馬車を囲まれたかと思うと、御者台に一人の男が乗ってきた。
テレンスの首筋にナイフを当て、男が、馬車を止めろ、と指示してきた。テレンスは言われた通り、馬車を止めた。
「……悪いな、サム。こちらの仕事は、もう必要なくなったんだ」
掠れた声に、サムは無言でナイフをしまい、馬車を囲う男たちに、中止だ、と言った。男たちはこくりと頷き、暗闇に消えていった。
「立派にリーダーやってるな」
「報酬は先にいただいてるし、馬車を襲う話しは中止もあり得るとあらかじめ伝えていたからな」
「──俺たちをつけてきている者はいたか?」
「いねえ。お前が屋敷を出てきてからずっと見張ってたが、静かなもんよ」
テレンスは、そうか、と息を吐いた。
「なら、お前たちのところに行ってもいいか?」
「おう。好きにしな」
「あの宝石、よほど高値で売れたらしいな」
「まだ売ってねえよ。これからだ。しかし、お前が考えていたより、よっぽどスムーズに事が運んだようだな」
そうだな。テレンスは、ぎりっと唇を噛んだ。一筋の血が、顎を伝う。
「考えていたより、ずっと、あいつらは屑だったよ」
馬車を走らせながら、テレンスはこれまでの経緯を語った。サムは、へえ、と思わず御者台から荷台を見た。
「なるほどねえ……遺書を破いて、娘の遺体を捨ててこいたあ。そんな家族じゃ、死にたくなる気持ちも、わからんでもねえなあ。けど、だからこそ、こんなにスムーズに事が運んだとも言えるな」
テレンスは答えなかった。その通りだとはテレンスも思っていたが、こうなることを、願っていたわけではなかったから。
「……痛っ」
頭痛で目を覚ましたアラーナは、ぼんやりとまぶたを開けた。そこには、窓から漏れる朝日に照らされた、古く汚れた知らない天井と、壁があった。
「……ここは」
何処だろう。呟く前に、耳に馴染んだ声色が響いてきた。
「アラーナお嬢様……」
顔を横に向けると、心配そうにこちらを覗き込むテレンスがいた。
「どこか身体に異常はありませんか?」
「……頭がぼんやりして、少し痛むだけ」
「他には?」
アラーナは「大丈夫」と答えながら、知らない部屋を見回した。そのうちに、ようやく思考が動いてきた。
「……あれ? わたし、生きてる?」
テレンスが「ええ、そうですよ」とほっと胸を撫で下ろした。どうやら、記憶に問題はないらしい。
「……どうして?」
アラーナが、静かに問いかける。ほっとしたテレンスに対し、アラーナは、眉をひそめていた。
テレンスが口を開く前に、第三者の声が割って入ってきた。
「お嬢さんがのんだのは、仮死状態になる薬だったんだよ」
そう告げたテレンスは、一時間もしないうちに、ウェバー公爵の屋敷を後にした。
幌馬車の御者台には、テレンスが。荷台には、木箱に入れられたアラーナがいた。暗闇の中、馬車がゆっくりと進む。突然、数人の人影に馬車を囲まれたかと思うと、御者台に一人の男が乗ってきた。
テレンスの首筋にナイフを当て、男が、馬車を止めろ、と指示してきた。テレンスは言われた通り、馬車を止めた。
「……悪いな、サム。こちらの仕事は、もう必要なくなったんだ」
掠れた声に、サムは無言でナイフをしまい、馬車を囲う男たちに、中止だ、と言った。男たちはこくりと頷き、暗闇に消えていった。
「立派にリーダーやってるな」
「報酬は先にいただいてるし、馬車を襲う話しは中止もあり得るとあらかじめ伝えていたからな」
「──俺たちをつけてきている者はいたか?」
「いねえ。お前が屋敷を出てきてからずっと見張ってたが、静かなもんよ」
テレンスは、そうか、と息を吐いた。
「なら、お前たちのところに行ってもいいか?」
「おう。好きにしな」
「あの宝石、よほど高値で売れたらしいな」
「まだ売ってねえよ。これからだ。しかし、お前が考えていたより、よっぽどスムーズに事が運んだようだな」
そうだな。テレンスは、ぎりっと唇を噛んだ。一筋の血が、顎を伝う。
「考えていたより、ずっと、あいつらは屑だったよ」
馬車を走らせながら、テレンスはこれまでの経緯を語った。サムは、へえ、と思わず御者台から荷台を見た。
「なるほどねえ……遺書を破いて、娘の遺体を捨ててこいたあ。そんな家族じゃ、死にたくなる気持ちも、わからんでもねえなあ。けど、だからこそ、こんなにスムーズに事が運んだとも言えるな」
テレンスは答えなかった。その通りだとはテレンスも思っていたが、こうなることを、願っていたわけではなかったから。
「……痛っ」
頭痛で目を覚ましたアラーナは、ぼんやりとまぶたを開けた。そこには、窓から漏れる朝日に照らされた、古く汚れた知らない天井と、壁があった。
「……ここは」
何処だろう。呟く前に、耳に馴染んだ声色が響いてきた。
「アラーナお嬢様……」
顔を横に向けると、心配そうにこちらを覗き込むテレンスがいた。
「どこか身体に異常はありませんか?」
「……頭がぼんやりして、少し痛むだけ」
「他には?」
アラーナは「大丈夫」と答えながら、知らない部屋を見回した。そのうちに、ようやく思考が動いてきた。
「……あれ? わたし、生きてる?」
テレンスが「ええ、そうですよ」とほっと胸を撫で下ろした。どうやら、記憶に問題はないらしい。
「……どうして?」
アラーナが、静かに問いかける。ほっとしたテレンスに対し、アラーナは、眉をひそめていた。
テレンスが口を開く前に、第三者の声が割って入ってきた。
「お嬢さんがのんだのは、仮死状態になる薬だったんだよ」
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