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「……婚約? キース殿下と、リネットがですか?」
ベッカー公爵が口を半開きにしたまま訊ねる。キースが「そうだ」と返す。アデラは信じられないといった風に、呆然としていた。
「……キース、殿下? 正気ですか? 私、言いましたよね? あなたのこと、お慕いしていると……」
「聞いたが、それがどうした。わたしはお前を好いてはいないし、何なら嫌悪しているほどだ」
アデラはぴくっと頬をひきつらせた。
「やだわ、キース殿下……ご冗談ばかり……」
「本当に話しの通じん奴だな。お前との会話は時間の無駄だ。もう黙っていろ」
キースは苛つきながら、ベッカー公爵に向き直った。
「話の続きだ。リネットはこれから、王宮に住んでもらうことにした。むろん、リネットの了承は得ている」
「そ、そんな勝手な……っ」
それまで沈黙していたリネットが、静かに口火を切った。
「勝手ではありません。キース様は、わたしを想って提案してくださったのです。だってわたしの夢は、一刻も早く、この屋敷から出ていくことでしたから」
「……ど、どうして」
「どうして? 言わねばわかりませんか?」
「私はこれまでずっと、お前のことを想い、育ててきた……それなのに」
「それが本心だろうとなかろうと、もうどうでもよいです。わたしはずっと、お父様とお姉様が大嫌いでしたから」
しん。
玄関ホールが静まりかえった。だがそれは、一瞬のことだった。
「ひどい……! キース殿下、聞きました? これがこの子の本性なのです。実の父と姉を前にして、平気で嫌いなどと言えるのですよ?」
アデラはキースにすり寄ろうとしたが「気安く触れるな」と、キースが大きく後退った。鋭い双眸を向けられ、アデラが固まる。
「リネット。荷物をまとめておいで。早くここから出よう」
「はい、キース様──あ」
リネットは玄関ホールに集まってきた使用人の中からリネット付きの侍女を見つけると、駆け寄った。侍女が涙ぐみながら嬉しそうにリネットの手をとる。
「おめでとう……おめでとうございます、リネットお嬢様。ああ、こんな日が来るなんて……もう思い残すことはございません……っ」
「ありがとう。ほら、あなたも早く、荷物をまとめきて?」
「……え?」
「キース様にお願いしたら、すぐに了承してくれたの。だからあなたさえよければ、一緒に王宮に来てくれないかしら?」
「そんな、夢みたいな話……本当によいのでしょうか……何だか怖いぐらいですね」
ふふ。
リネットは侍女と額をくっつけ合い「わたしも同じ気持ちよ」と、一緒に涙を流しながら笑った。
ベッカー公爵が口を半開きにしたまま訊ねる。キースが「そうだ」と返す。アデラは信じられないといった風に、呆然としていた。
「……キース、殿下? 正気ですか? 私、言いましたよね? あなたのこと、お慕いしていると……」
「聞いたが、それがどうした。わたしはお前を好いてはいないし、何なら嫌悪しているほどだ」
アデラはぴくっと頬をひきつらせた。
「やだわ、キース殿下……ご冗談ばかり……」
「本当に話しの通じん奴だな。お前との会話は時間の無駄だ。もう黙っていろ」
キースは苛つきながら、ベッカー公爵に向き直った。
「話の続きだ。リネットはこれから、王宮に住んでもらうことにした。むろん、リネットの了承は得ている」
「そ、そんな勝手な……っ」
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「勝手ではありません。キース様は、わたしを想って提案してくださったのです。だってわたしの夢は、一刻も早く、この屋敷から出ていくことでしたから」
「……ど、どうして」
「どうして? 言わねばわかりませんか?」
「私はこれまでずっと、お前のことを想い、育ててきた……それなのに」
「それが本心だろうとなかろうと、もうどうでもよいです。わたしはずっと、お父様とお姉様が大嫌いでしたから」
しん。
玄関ホールが静まりかえった。だがそれは、一瞬のことだった。
「ひどい……! キース殿下、聞きました? これがこの子の本性なのです。実の父と姉を前にして、平気で嫌いなどと言えるのですよ?」
アデラはキースにすり寄ろうとしたが「気安く触れるな」と、キースが大きく後退った。鋭い双眸を向けられ、アデラが固まる。
「リネット。荷物をまとめておいで。早くここから出よう」
「はい、キース様──あ」
リネットは玄関ホールに集まってきた使用人の中からリネット付きの侍女を見つけると、駆け寄った。侍女が涙ぐみながら嬉しそうにリネットの手をとる。
「おめでとう……おめでとうございます、リネットお嬢様。ああ、こんな日が来るなんて……もう思い残すことはございません……っ」
「ありがとう。ほら、あなたも早く、荷物をまとめきて?」
「……え?」
「キース様にお願いしたら、すぐに了承してくれたの。だからあなたさえよければ、一緒に王宮に来てくれないかしら?」
「そんな、夢みたいな話……本当によいのでしょうか……何だか怖いぐらいですね」
ふふ。
リネットは侍女と額をくっつけ合い「わたしも同じ気持ちよ」と、一緒に涙を流しながら笑った。
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