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「お兄様!」
案内された応接室には、全員が勢揃いしていた。ジェンキンス伯爵は入り口からもっとも遠い位置に。ジェンキンス伯爵夫人とミア、そしてエディは、その右側に並んで座っていた。開かれた扉から入ってきたルソー伯爵とコーリーに、全員が目を向ける。
間髪を入れず、エディに駆け寄ろうとするコーリー。それを見越していたように立ち上がると、エディは無言で、拒絶するように右手を前に出した。
「……近寄らないでくれ」
「お兄様、もう大丈夫なんです! お父様が、助けてくださると約束してくださいましたから!」
「……なんの話しだ」
「お兄様は、ミアに脅されていたのでしょう? だから仕方なく、あたしにああいった態度をとられたのですよね? でも、もう安心なのです。お父様が、なんとかしてくれます!」
エディは頭痛がしたように「……お前は、自分に都合よく記憶をかきかえる天才だな」と、こめかみを押さえた。
「え?」
「……いや、そうだな。お前をそんな風に育てたのは、ルソー伯爵だ。お前もある意味、被害者なのかもしれない」
「お兄様? なにをおっしゃっているの? あたし、お父様に育てられて、とても幸せだと思っていますよ?」
そうか。
エディは呟くと、コーリーを正面から見据えた。
「僕を脅していたのは、ミアじゃない。ルソー伯爵だよ」
コーリーは、不思議そうに首を傾げた。
「お父様がお兄様を脅す必要が、どこに?」
「優秀だった僕の父──ルソー伯爵の弟を、ずっと妬んでいたそうだから、その子どもである僕も、憎かったんじゃないかな。そのへんは、あとでルソー伯爵に詳しく聞いてくれ」
「お、お前! なんだその口の聞き方は!?」
怒りを露わにし、怒鳴るルソー伯爵を指差し、エディは続けた。
「ほら、機嫌が悪くなると、すぐにこうやって怒鳴られて、脅迫されていたんだ、僕は。コーリーの知らないところで、ずっとね」
「き、貴様! 嘘をつくのも大概にしろ!」
「……ああ、思っていた通りの反応だ。誰が正しいか、なにが間違っているか、あの屋敷において、決めるのは、あなただった……」
掠れた声で、苦しそうに吐き捨てるエディに、コーリーが困惑する。
「……お兄様?」
「コーリー。僕はね、はじめてルソー伯爵に会ったとき、こう言われたんだ。私の家族に迷惑をかけるな。いつも笑顔で、常に感謝していろ。そして──コーリーを一度でも泣かせれば、すぐに屋敷を追い出し、人買いに売り飛ばしてやる、と。そう、脅されていたんだ」
コーリーの双眸が、はち切れんばかりに、見開かれた。
案内された応接室には、全員が勢揃いしていた。ジェンキンス伯爵は入り口からもっとも遠い位置に。ジェンキンス伯爵夫人とミア、そしてエディは、その右側に並んで座っていた。開かれた扉から入ってきたルソー伯爵とコーリーに、全員が目を向ける。
間髪を入れず、エディに駆け寄ろうとするコーリー。それを見越していたように立ち上がると、エディは無言で、拒絶するように右手を前に出した。
「……近寄らないでくれ」
「お兄様、もう大丈夫なんです! お父様が、助けてくださると約束してくださいましたから!」
「……なんの話しだ」
「お兄様は、ミアに脅されていたのでしょう? だから仕方なく、あたしにああいった態度をとられたのですよね? でも、もう安心なのです。お父様が、なんとかしてくれます!」
エディは頭痛がしたように「……お前は、自分に都合よく記憶をかきかえる天才だな」と、こめかみを押さえた。
「え?」
「……いや、そうだな。お前をそんな風に育てたのは、ルソー伯爵だ。お前もある意味、被害者なのかもしれない」
「お兄様? なにをおっしゃっているの? あたし、お父様に育てられて、とても幸せだと思っていますよ?」
そうか。
エディは呟くと、コーリーを正面から見据えた。
「僕を脅していたのは、ミアじゃない。ルソー伯爵だよ」
コーリーは、不思議そうに首を傾げた。
「お父様がお兄様を脅す必要が、どこに?」
「優秀だった僕の父──ルソー伯爵の弟を、ずっと妬んでいたそうだから、その子どもである僕も、憎かったんじゃないかな。そのへんは、あとでルソー伯爵に詳しく聞いてくれ」
「お、お前! なんだその口の聞き方は!?」
怒りを露わにし、怒鳴るルソー伯爵を指差し、エディは続けた。
「ほら、機嫌が悪くなると、すぐにこうやって怒鳴られて、脅迫されていたんだ、僕は。コーリーの知らないところで、ずっとね」
「き、貴様! 嘘をつくのも大概にしろ!」
「……ああ、思っていた通りの反応だ。誰が正しいか、なにが間違っているか、あの屋敷において、決めるのは、あなただった……」
掠れた声で、苦しそうに吐き捨てるエディに、コーリーが困惑する。
「……お兄様?」
「コーリー。僕はね、はじめてルソー伯爵に会ったとき、こう言われたんだ。私の家族に迷惑をかけるな。いつも笑顔で、常に感謝していろ。そして──コーリーを一度でも泣かせれば、すぐに屋敷を追い出し、人買いに売り飛ばしてやる、と。そう、脅されていたんだ」
コーリーの双眸が、はち切れんばかりに、見開かれた。
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