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ジェンキンス伯爵家の当主となり、領主となったカールは、忙しい毎日を送るなか、それでもミア──いや、ダリアに愛情を、言葉と態度で示し続けた。むろん、ホリーも一緒に。もしかしたらそれは、カール以上だったかもしれないが。
最初は怯え、泣いてばかりいたダリアも、少しずつ、少しずつ、笑顔を見せてくれるようになっていった。ほっとしつつ、でも、変わらずミアは眠ったままのようで。
ずっとこのままの可能性はある。医師は告げた。できることと言えば、変わらず、愛情を注ぐことだけ。
でも。
その日は、唐突に訪れた。
一人で眠るのが怖いというダリアを真ん中に、一つの大きな寝台で眠るのが日課となったカールとホリー。
窓から差し込む気持ちのよい朝日に目を覚ましたカールは、上半身を起こし、ぼーっとしているダリアに、おはよう、と寝ぼけまなこで笑いかけ、自身も身体を起こした。
「? どうした?」
ダリアの顔を覗き込む。ダリアは、夢見心地といった表情で、カールと視線を交差させた。
「……あの、ここはどこですか?」
カールが目を丸くする。ダリアは今まで、一度だって、丁寧語で話たことがなかったから。
脳裏を過った可能性に、カールは思わず、生唾を吞んだ。
「ここは、ジェンキンス伯爵家の屋敷だよ」
「……ミアの、おうち、ですか?」
「?! あ、ああ。そうだよ」
どくん。どくん。
カールの心臓が、早鐘を打ちはじめる。すると、ミアが「……あなたは、ミアのおとうさまですか?」と不思議そうに首を傾げた。
カールが瞠目する。いくら兄弟とはいえ、カールは兄と瓜二つ、というわけでは決してない。なのに。
(……いや。三歳の頃から表に出ていたのは、ダリアだ。そのあいだミアが、ダリアが言うように、ずっと眠っていたのだとしたら……)
ミアの中の記憶は、三歳で止まっている。それは、あまりに幼すぎる年齢だ。一、二歳の記憶など、少なくともカールは、ほとんどないと言っていい。
「──ミア」
いつの間に起きていたのか、ホリーが、ミアの名を呼んだ。ミアが、そちらに視線を移す。
「わたしが、わかる?」
ホリーが、優しく問いかける。ミアは少し迷ったあと「……おかあさま?」と答えた。
「……ええ、そうよ。愛しているわ、ミア」
ホリーが瞳を潤ませ、ミアを抱き締める。ミアは戸惑いながらも、嬉しそうに頬を緩めていた。
ダリアの記憶を、断片的にでも受け継いでいるのだろうか。頭ではなく、心で。そんな風に、カールは思った。
曖昧な記憶。想い出。それでもミアの中で、カールとホリーは本当の両親だという想いが、時間を重ねるごとに確かなものになっていく。
そしてミアたちは、本物の家族となっていった。
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ずっとこのままの可能性はある。医師は告げた。できることと言えば、変わらず、愛情を注ぐことだけ。
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「? どうした?」
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(……いや。三歳の頃から表に出ていたのは、ダリアだ。そのあいだミアが、ダリアが言うように、ずっと眠っていたのだとしたら……)
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ダリアの記憶を、断片的にでも受け継いでいるのだろうか。頭ではなく、心で。そんな風に、カールは思った。
曖昧な記憶。想い出。それでもミアの中で、カールとホリーは本当の両親だという想いが、時間を重ねるごとに確かなものになっていく。
そしてミアたちは、本物の家族となっていった。
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