真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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 案内された病室には、寝台の上で布団にくるまり、顔すら確認できないミアがいた。
     
 カールは意を決して、病室へと足を踏み入れ、できる限りの優しい声音で、ゆっくりと語りかけた。

「はじめまして。私は、カール・ジェンキンス。きみの父親の弟だよ」

 しん。応答はない。それでもカールは根気強く語りかけ続けた。わざと明るい話題をしていたが、やがて、決意したように、恐々と核心に迫ることを話はじめた。

「……私の兄に、とてもひどいことをされていたと聞いたよ。実は私も、えと、きみのお父様に、よく、打たれたり、していて……」

 数分後。布団の中から「……おじさんも?」という、小さな声が聞こえてきた。カールはやっとの反応に嬉しくなり、頬を緩めた。

「そうだよ。痛くて、苦しくて、とてもつらかった。でも、誰も助けてくれなくて」

 もそっ。布団に包まりながらちょっとだけ顔を出した少女が「ダリアも、いっしょ」と、呟いた。

 ダリア。その名にぴくりとしたカールだったが、なんとか平静を装った。

「そっか。怖かったね」

「……うん。こわかった。あのね、ミア、ずるいんだよ。ずっとね、ねむっててね。ダリアばっかり、おそとにでててね」

 ──ああ。

 カールが、強く、強く噛み締める。

 あの医師の説明がなければ、自分はどんな反応をしていたのだろう。考えるだけで、ぞっとした。傷付いた姪を、さらに傷付けることになっていたかもしれない。

「……ひくっ……っ」

 目の前で泣きじゃくる姪。抱き締めたい衝動に駆られるが、きっと、兄の面影がある自分では、怯えさせてしまうかもしれない。

 なにもできないまま、時間だけが過ぎていく。そんな中、カールの双眸に、とある決意が宿った。

 これは、ただの自己満足かもしれない。救えなかった。助けられなかった姪に対する、懺悔のような。

 ──それでも。せめて、これからできるとこを。


 カールには妻のホリーがいたが、子どもはいなかった。子どもを望んでいなかったわけではなく、授かれずにいたのだ。そんなホリーに、カールはすべてを話たうえで、ミアを養子にしたいと言った。

 それは、簡単に同意できることではなく。ホリーは結論を出すのに、ひと月を要した。悩んで。悩んで。それでも、子どもを望み、虐待を受けていたミアに心を痛めることができるホリーの承諾を得て、カールは、ミアを養子に迎え入れた。


 そしてカールは、亡き兄に代わり、ジェンキンス伯爵家の当主となった。
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