真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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「…………?」

 左頬を打たれたコーリーは、呆然としていた。生まれてからこれまで、誰かに打たれたことはもちろん、怒鳴られたことすらなかったコーリーにとって、これは、あまりに衝撃的な出来事だった。

「毒しか吐かない、わがままお嬢様。その汚いお口、少し閉じてくださる?」

 落ち着いた、冷静な声色が、コーリーの耳に届いた。それは、誰かと疑うほどに、別人のよう思えて。けれどゆっくりと視線を向けると、やはりそこには、ミアがいた。

「安心して。本当にあなたとエディが相思相愛なのだとしたら、お望み通り、エディとの婚約は解消してあげるわ」

「…………っ」

「あら、どうしたの? これが、あなたの望む答えだったのではないの?」

 ミアが、コーリーに一歩近付く。コーリーは打たれた頬を左手で押さえ、ぽろっと涙を流した。そして。

「……お、お兄様ぁぁぁっっ」

 喚きながら、部屋を飛び出していった。ミアが、呆れたように息をついた。

「まったくもう。弱っちいのは、どちらなのかしらね」

 

 ──一方のエディは、玄関ホールにいた。ミアの部屋がある二階を見上げていると、突然、部屋の扉が開いた。中から飛び出してきたのは、コーリーだった。

 お兄様。と、泣きながら階段を下り、エディの胸へと飛び込んできた。なにがあったかと問う前に、コーリーがしゃくりあげながら、必死に訴えかけてきた。

「……お、お義姉様が、あたしを、打ったのです……っ」

 エディは瞠目すると、コーリーの両肩を掴み、自分から引き剥がした。

「──ミアに、なにをした」

 殺気さえ込められた双眸に、コーリーは凍りついた。ただでさえぐちゃぐちゃな思考が、パニック状態になる。

「……どうして? 打たれたのは、あたしなのに……ひどいことしたのは、ミアなのに……どうしてミアを責めずに、あたしを責めるの……?」

 ぽつぽつと疑問を投げかけるコーリーに、エディは舌打ちしそうになる。日頃の行いだろう。言ったところで、通じないのは身に染みている。


「──あら、嬉しい。コーリーではなく、わたしの心配をしてくれるのね」


 慌てた様子もなく、優雅にすら感じるほどにゆったりと階段をおりてきたミアに、エディは目を丸くした。まとう雰囲気が、まるで違っていたからだ。

「……ミア?」

 名を呼ぶと、ミアは、小さく微笑んだ。

「ねえ、エディ。あなたは、わたしとコーリー、どちらを愛してる?」

 エディは頭にいくつもの疑問符を浮かべながらも「そんなの、決まっている。僕は」と答えようとしたとき、コーリーが遮るように「あたしに決まっているじゃない!」と叫び、エディを見詰めた。

「お兄様。あたしたち、本当の兄妹ではなかったのです。お兄様は、あたしの従兄弟だったのですよ!」

 とたん、エディの全身が強張った。黙り込むエディに、コーリーは嬉々として続けた。

「あたしたち、結婚できるんです。兄妹だからと、もう我慢しなくてもよいのですよ!」

「……誰が、それを」

「お父様が教えてくださったのです。愛し合うあたしたちの姿に、黙っていられなくなったのでしょう!」

 こつ。こつ。
 一歩、一歩。エディたちに近付きながら、話を続けるようにミアが口を開いた。

「わたしが、エディとの婚約解消に快く応じること。それが、ルソー伯爵がコーリーに出した、二人の交際を認める条件だそうです」

「そうなのです。ですからあたし、一生懸命お願いしていたんです。愛し合うあたしたちを、どうか引き裂いたりしないでくださいって」

 ミアが「あなた、息をするように嘘をつくのね」と呆れた眼差しをコーリーに向ける。コーリーは、打たれた恐怖を黙らすように、ぎろっとミアを睨み付けた。

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