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 外に出たアルマンド伯爵は、後ろ手で、扉を閉めた。怒りを宿した双眸に、ダレルとバーサはごくりと生唾をのんだが、すぐに開き直ったかのように、口を開いた。

「アルマンド伯爵。アレクシアから何か話しを聞かされたかもしれませんが、それらは全て、虚言です」

「……ほお?」

「ぼくが事実を説明します。ここにいるのは、ぼくの友人の子爵令嬢、バーサです。誓って、特別な関係ではありません」

 ダレルと目線を交差させたバーサが、その通りです、と首を縦にふる。

「ですが、あたしとダレル様の関係を誤解したアレクシア様が、あたしに嫌がらせをしてきたのです。最初はあたしも、耐えていました。話し合いを続ければいつか、わかってくれるものと信じていましたから。でも……」

「そう、そうなのです。耐えて、耐えて。でも耐えられなくなって、ようやくぼくに相談してきたというわけです」

 アルマンド伯爵は「そこまで言い切るなら、証拠はあるのだろうな」と、腕を組んだ。

 ダレルは、ぴくりと片眉を動かした。

「……証拠、ですか?」

「ああ、そうだ」

「アルマンド伯爵。虐めの証拠など、そうそうあるものではありませんし、虐められたという被害者の証言があることは、ある意味で証拠と言えるのではないでしょうか」

「なら、証人はいるのか?」

 たたみかけてくるアルマンド伯爵に、ダレルが歯噛みする。

「……アレクシアは、人目のつかないところでバーサを虐めていたのです。証人など、いるはずがありません」

「つまりは、証拠もなければ証人もいないということだな」

「……ですから! そんなもの、ある方がおかしいと言っているのです!!」

「──ならば、私が調べるとしよう」

 アルマンド伯爵の言葉に、二人は目を瞠った。そんな二人をよそに、アルマンド伯爵は続ける。

「複数回、アレクシアがお前を虐めていたというなら、アレクシアとお前が一緒にいるところを目撃した生徒や教師が、探せばいるのではないか?」

「そ、れはそうかもしれませんが……必ずしもいるとは……」

 ダレルが視線を泳がせるのをみてから、アルマンド伯爵はバーサに顔を向けた。

「子爵令嬢。お前がアレクシアに虐められたというのは、いつだ? 一番最近のものでかまわん」

「え? そんな……急に言われましても」

「なら、時間をやる。耐えきれなくなってダレルに相談したということなら、それほど前のことではないはずだ。日付と、できるだけ正確な時間を思い出せ」

「……あ、あの」

「もしその日、その時間にアレクシアにアリバイがあった場合──どうなるか、わかっているな?」


 静かな威圧感に、ダレルとバーサはごくりと生唾をのんだ。
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