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──愛するぼくが、婚約破棄したいと告げたら、アレクシアはどんな反応をするだろう。
絶望し、別れないでくれと縋るアレクシアの姿を想像しただけで、口元が緩んだ。ただ、どんな理由にせよ、アレクシアはぼくを放っておきすぎた。だからもう、愛情はない。
毎日、好きだ、愛していると伝えてくれるバーサ。ぼくが一番だと、素直な気持ちを言ってくれる。
バーサを愛している。バーサも、ぼくを愛してくれている。そしてぼくは、兄より弟より、優れている。
幸せだと、胸を張れる。
ぼくをほったらかしにしたアレクシアのことなんて捨てて、バーサと、幸せになると決めた。
決めたんだ。
「……あ」
気付いたときにはもう、アレクシアの頬を叩いていた。右手がじんじん痛みはじめる。
打つつもりはなかった。なかったが、平然と人を傷付ける言葉を吐いたアレクシアが悪いのだと思い直し、ダレルは顔をあげた──いや、あげようしたが、できなかった。
股間を、アレクシアに膝蹴りされたからだ。
「…………っっ」
股間を押さえ、膝から崩れ落ちるダレル。バーサが真っ青な顔で口元を両手で覆い、おろおろする。
アレクシアは今のうちだと音楽室を飛び出し、走って走って、学園のすぐ傍で待機しているアルマンド伯爵家の馬車に飛び乗った。
「出して! 早く! お屋敷まで全速力!」
命じられた馭者が、は、はい、と困惑しながらも手綱を握った。馬車が、ゆっくりと動きはじめる。
馬車内で、アレクシアは荒い息を整える。アレクシアの父親──宮中伯のアルマンド伯爵の屋敷は王都にあるため、ここから数十分とかからない。
(今日は、遅くならないって言っていたはず……っ)
きっと、ダレルは後を追いかけてくる。そうなれば、どんな嘘をまき散らすかわからない。そうなるまえに、屋敷に着いたら、すぐに事情を説明しなければ。
アレクシアは痛みを自覚しはじめた左頬をおさえ、ふう、と深く息を吐いた。
絶望し、別れないでくれと縋るアレクシアの姿を想像しただけで、口元が緩んだ。ただ、どんな理由にせよ、アレクシアはぼくを放っておきすぎた。だからもう、愛情はない。
毎日、好きだ、愛していると伝えてくれるバーサ。ぼくが一番だと、素直な気持ちを言ってくれる。
バーサを愛している。バーサも、ぼくを愛してくれている。そしてぼくは、兄より弟より、優れている。
幸せだと、胸を張れる。
ぼくをほったらかしにしたアレクシアのことなんて捨てて、バーサと、幸せになると決めた。
決めたんだ。
「……あ」
気付いたときにはもう、アレクシアの頬を叩いていた。右手がじんじん痛みはじめる。
打つつもりはなかった。なかったが、平然と人を傷付ける言葉を吐いたアレクシアが悪いのだと思い直し、ダレルは顔をあげた──いや、あげようしたが、できなかった。
股間を、アレクシアに膝蹴りされたからだ。
「…………っっ」
股間を押さえ、膝から崩れ落ちるダレル。バーサが真っ青な顔で口元を両手で覆い、おろおろする。
アレクシアは今のうちだと音楽室を飛び出し、走って走って、学園のすぐ傍で待機しているアルマンド伯爵家の馬車に飛び乗った。
「出して! 早く! お屋敷まで全速力!」
命じられた馭者が、は、はい、と困惑しながらも手綱を握った。馬車が、ゆっくりと動きはじめる。
馬車内で、アレクシアは荒い息を整える。アレクシアの父親──宮中伯のアルマンド伯爵の屋敷は王都にあるため、ここから数十分とかからない。
(今日は、遅くならないって言っていたはず……っ)
きっと、ダレルは後を追いかけてくる。そうなれば、どんな嘘をまき散らすかわからない。そうなるまえに、屋敷に着いたら、すぐに事情を説明しなければ。
アレクシアは痛みを自覚しはじめた左頬をおさえ、ふう、と深く息を吐いた。
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