あなたを愛していないわたしは、嫉妬などしませんよ?

ふまさ

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「愛して、いない……?」

 不思議そうにするダレルに、アレクシアも、ええ、と首を傾げた。

「逆に、どうしてわたしがあなたを愛していると思えたのですか? 近頃は、ろくに会話もしていなかったはずですが……」

「……それは、ぼくにそっけないきみが嫌になったから……だから会わないようにしていただけで……きみは、我慢しているのかと」

「……そっけなくしている相手を愛していると、どうして思えたのでしょうか」

「きみは不器用で、素直じゃないから……好きな相手にこそ、そうなるのかなと思って……」

 何とまあ、都合のいい解釈だろうか。アレクシアは、絶句した。

「第一、ぼくのことが好きじゃないなら、そもそもぼくと婚約なんてしてないはずだろ?」

「それは、お父様の命令だったからです。あなたも同じでしょう?」

「違うね。あのとき、父上たちはこう言っていたはずだ。ぼくか、ダンのどちらかを選びなさいと」

 ダン、とは。二つ年下の、ダレルの弟。文武両道の、オリバー伯爵家の優れた三男である。

「そしてきみは、ぼくを選んだ。少なくとも、あの憎たらしいダンよりは、ぼくに好意を抱いていたはずだ。違うか?」

(……なるほど。あれがきっかけでダレルは、変な自信を持ってしまったのね)

 アレクシアはあのとき理由を説明しなかったことを後悔しつつ、違います、ときっぱり否定した。

「わたしはダンから事前に、想い人がいることを聞かされていました。だから、あなたを選んだ。ただ、それだけです」

 ダレルは目を見開いた。

「……そ、そんな。苦し紛れに、そんな嘘を」

「なら、ダンに直接たずねてみてください。その想い人と婚約することになったと、三ヶ月前に、お礼の手紙が届きましたから」

 ダレルがショックで固まる。優秀な兄と弟に挟まれたダレルにとって、自分を選んでくれたという事実は、何よりの自信に繋がっていた。

 だから、それを否定されたダレルは、絶望した。

 絶望するまま、アレクシアに、手をあげた。


 ぱあん。
 乾いた音が、音楽室に響いた。

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